最高の友達
区切りのいい所で終わらせたので今回は短いです
「あの、ジーンさん一つ聞いてもよろしいですかぁ?」
魔獣達を堪能している途中カナデさんがジーンさんに声をかけた。
「あらなにかしら?」
「えとぉ、ジーンさんはどうして女性の格好をしているんですかぁ?」
直球で行った!
「変?」
「変……というか不思議に思いますねぇ。正直にいいますとジーンさんの容姿では気持ちが悪がられると思うんですけどぉ」
「本当に正直ね。ふふっ、でもあなたの事気に入っちゃった。貴女は気持ち悪いなんて全然思ってないでしょ?」
「いい筋肉してるとは思いますよぉ?」
「ありがと。貴女みたいに普通に接してくれる子なんて滅多にいないのよね。貴女が男の子だったら惚れちゃってたわ」
「あっ、男性の事が好きなんですね~」
「ええ、そうよ。気持ち悪いと思う?」
「いえいえ~、色んな愛の形があっていいと思いますよぉ」
懐が広いなカナデさんは。僕は多分前世や今世でも男だったら身の危険を感じて距離を取るだろうな。
今世では女性の身体になったからなのか嫌悪感は湧いてこない。それに僕だって傍から見たら同性愛者だろう。ジーンさんの事をとやかく言う資格なんてない。
「だからってこういう格好をしている訳じゃないのよ?
私はこの格好が自分にとってごくごく自然な格好だと気づいてしまっただけなの」
「自然な格好ですか~」
「悩んだ事はない? 自分が周りとは違う感性を持っている事に……特にナギちゃんとか」
「私の場合は気づいたわけではないのでなんとも」
もしかして同類だと思われてる?
「ただそうですね……ジーンさんには悪いですけど、私はそういう事で悩んだ事はないんです。
私は男の格好をしても誰からも咎められませんでしたから、本当に周りに恵まれ、運がよかったんです」
「……そう、羨ましいわ。その年で自分の在り方を見つけられているなんて」
「それにしてもよく分かりましたね?」
「ふふっ、よくかわいい男の子を見てるからね。貴女の仕草はどう見ても女の子に見えなかったわ」
「ん~。アリスさん。さっきから何の事ですかぁ?」
「……カナデさんにも、もう話した方がいいかもしれませんね」
「ナギさん! そんな……言わなくてもいい事だと思います」
フェアチャイルドさんが僕に駆け寄ってきて止めるように僕の手を取った。
「ううん。僕はカナデさんのこと信頼している。いずれは気づくかもしれないし、今のうちに話しておきたいんだ」
この一年でカナデさんの人柄は分かったつもりだ。
カナデさんは本当にいい人で、何度もお世話になっている。最初の頃はトラブルを避ける為にも隠し通そうと思っていたがカナデさんのような人のいい女性に対して隠し続けるというのも負い目を感じ始めてたんだ。
「……分かりました」
「カナデさん」
「はい~」
「僕は……自分の事を男だと思っています」
「……えとぉ、女の子ですよねぇ?」
「はい。身体は女性に生まれてきましたが心は男だと自認しています」
「はぁ……ん~、え~とぉ、ジーンさんと同じ、という事でしょうか?」
「同じと言っていいかは分かりません。何せ心の問題ですから誰にも確かめようがありません」
「それはそうですねぇ」
「ただ一つ……今になって言うのは卑怯かもしれませんが、僕は女の子が好きです」
「……えーと……ふ、ふえええええ!? ア、アリスさんは同性愛者だったんですかぁ!?」
ジーンさんの時とは違いカナデさんは驚きの声を上げ僕から遠ざかった。
少し寂しさを感じるがこれは仕方ない。
ジーンさんの場合は一応相手が男性なのでカナデさんには直接関係ない。
しかし、僕の場合は相手が女性だ。ばっちりカナデさんも対象に入ってしまっている。
「他者からはそう見えても仕方ないと思います」
「そ、そうだったんですかぁ……なんだかあまり実感がわきませんねぇ。
あっ、公衆浴場に入る時目隠しをしていたのはその所為ですかぁ?」
「はい。なるべく他の女性の裸を見ない様にしていたんです」
「貴女そんな事までしているの?」
「はい。身体は女の子ですが僕は男です。公衆浴場を利用する時は女湯の方を使わないといけないから女湯の方に入りますけど、やはり男である僕が堂々と他の女性の裸を見るのは気が引けますから」
「私だったら喜んで男湯にはいるけどねぇ」
「じゃあじゃあ着替えの時いつも背を向けていたのも」
「見ないようにする為です」
「はぁ~。徹底してますねぇ。レナスさんは知っていたのですかぁ?」
「はい。大分前に伝えてあります。そして秘密にしてほしいと頼んだんです」
「なるほどぉ。時々見られるレナスさんの奇行はその事を隠す為の欺瞞工作だったんですねぇ」
「え」
「奇行ですか?」
「はい~。アリスさんを公衆浴場に無理やり連れて行こうとしたり、着替えや身体を拭いている最中アリスさんの事をじっと見ていたり、色々としていましたぁ」
「ちょ」
「全てはアリスさんを守る為だったんですね~」
「そうだったんだ……」
なんて事だ。僕は、秘密をしゃべってしまったためにフェアチャイルドさんにそんな余計な重荷を背負わせていたのか。
思い返せば色々と思い当たる事があるような気がする。えーと…ほら、ヴァロナをフェアチャイルドさんが選んで僕に着せたのだって、僕は普通の女の子だと周りにアピールさせるのが目的だったんだ!
「ごめんフェアチャイルドさん……僕は君にそんな事をさせる為に秘密を話したわけじゃないんだ。
僕は……僕は全然気づけなかった。君がこんなにも僕の事を助けてくれていただなんて」
僕は彼女の事を全然見ていなかったんだ。何が大人だ! 僕の事を助け続けていてくれた事に気づかないで何が大人だ!
何を彼女の保護者ぶっていたんだ!
「え、えと……お、お気になさらないでください」
「いいや。君はいつも僕の事を助けてくれる。君が僕を認め助けてくれていたから僕は僕らしく今までいられたんだ。
いくら感謝してもし足りないくらいだ。でもあえて言わせて。
ありがとうフェアチャイルドさん」
本当に、本当に彼女はいつも僕の事を救ってくれる。
「いい話ね」
ジーンさんも涙ぐみきれいな刺繍の入ったハンカチを使い目尻から涙を吸い取っている。
「ナギちゃん。本当にお友達に恵まれているのね。私にも彼女のような存在がいたら……」
「はい。彼女は尊敬すべき最高の友達です!」
「さ、最高……? くふっ」
「ふふっ、大切にするのよ」
「当然です」
何度心の中で誓ったか分からない。でも、何度でも僕は繰り返し心に刻み付けよう誓おう。
僕は必ずこの子を守る。
ジーンさん達と別れた後少し遅くなったが僕達の魔獣達の元へ行きご飯の用意をする。
癒し成分を補充した後昼間の内にフェアチャイルドさん達が取っておいてくれた宿屋へ行くとちょうど夕飯の時間になった。
夕飯を食べ公衆浴場に行く事になると、カナデさんが僕の事を見てきた。
警戒されているというほどではないが僕に対し接し方を決めかねているんだろう。
僕は公衆浴場へは行かず濡らした布で身体を拭くに留める事にした。
フェアチャイルドさんは僕と一緒に行きたそうにしていたが、カナデさんは今回は口を挟む事はしてこなかった。
前までならカナデさんも誘ってきたのだけれど。
カナデさんとの間に今まで感じなかった布で遮られたような感覚を覚える。
言わない方がよかっただろうか? しかし、後悔してももう遅い。覆水盆に返らず。話した事を無かった事にして元通りになる、という事はないんだ。




