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空へ続く道

 グランエルに着くと僕はいつも通りディアナと一緒に皆と別れてまず最初に魔獣達を預かり施設に向かった。

 その道の途中。


「そこの魔獣使いの子。ちょっといいかしら」


 声のした方を向いてみると、そこには筋骨隆々の化粧と顔の濃い男の人がいた。

 いや、もしかしたらお姉さんかもしれない。何故ならはちきれそうな筋肉に張り付いている服は女性物だ。

 スカート丈が足首まである両肩がむき出しで身体に張り付き筋肉を主張させているワンピースのドレスに、花柄のストールのような薄い布を肩にかけている。

 中々煽情的かつ(筋)肉感的な格好で不思議な色気を感じる。子供には刺激が強く教育上あまり見せたくないような人だ。

 一緒にいたディアナはうわっ、と言う声を上げてすぐに姿を消してしまった。失礼だな。


「私ですか?」


 首を傾げ答えると男の人は頷いた。


「ええ、そうよ。貴女魔獣を連れているという事は魔獣使いよね?」


 野太い声でオネエ口調を使っている。こういう人こっちの世界にもいるんだなぁ。

 それともオネエ口調はガーベラの様に言葉のイントネーションの違いを自動翻訳が僕のイメージで変換しているのだろうか?


「はい。そうです。えと、貴方は?」

「あら申し遅れたわね。私は貴女と同じ魔獣使いのジーナよ。一応冒険者をやっているわ」

「私はアリス=ナギです。それで、何かご用でしょうか?」

「いえね、あまりにも立派なアライサスの魔獣だからつい声をかけてしまったのよ」

「そうですか。そう言っていただけるとアースも喜びます」


 というか何でもない風におすまし顔をしているが鼻をひくつかせている。ちょっと褒められただけなのにちょろい仔だ。


「うふふ。本当いい仔ね。レベッカ、貴方も挨拶なさい」


 ジーナさんが手を動かすと背後の方からぬらっと長い影が出て来た。


「ぴぃ」


 ナスが警戒の声を上げる。注意を促すというよりは恐れている感じの声だ。

 長い影に見えた物は、まさに影のように黒くアナコンダのように太く大きい蛇の魔獣だった。



「蛇、ですか?」

「ええそうよ。シャドウ・サーペントのレベッカ。仲良くしてあげてね」

「しゃー」


 尻尾を揺らして僕達を見てくる。

 しゃーという音は聞こえてくるが意思は伝わってこない。恐らく鳴き声じゃないんだろう。

 こちらの図鑑で見た覚えがある。蛇には発声器官がなく、尻尾から音を出しているんだ。

 僕の固有能力は意思が込められた言葉を翻訳する能力。言葉とは口から発せれられる物。言葉でない音には通用しない。


「ぴぃ……」


 レベッカさんはナスの様子に仕切りにジーンさんの方に視線を向けて戸惑っているような動きを見せている。


「ぼふっ」


 まだ警戒の声を上げるナスに対してアースが鼻先でナスを小突いて辞めさせた。


「すみませんうちのナスが」

「いいのよ。ナビィにとって蛇は餌であり天敵でもあるんだから、警戒するのも無理はないわ」


 ナビィは雑食で小さい蛇なら捕まえて食べてしまう。しかし、その際に毒を持つ蛇に反撃され殺されてしまうナビィも少なくないという。

 ナスが蛇を警戒するのはやはり本能的な物だろうか。


「えと、ジーンさんも預かり施設に?」

「私はレベッカのお散歩よ。他にも四匹魔獣いるんだけど今は施設の小屋で待っているわ」

「それでしたら……不躾ですがこの子達を預けたらジーンさんの魔獣を見せていただいてもよろしいですか? 中々他の魔獣使いの魔獣と会う事ってないですから興味があるんです」

「あら、ええいいわよ。それにしても、貴女まだ若いのに三匹もの魔獣を仲間にするなんてすごいじゃない」

「運がよかったんです。元々僕の固有能力は魔獣達と相性が良くて、出会いも重なりこうして一緒にいてくれるんです」


 まだ警戒をして尻尾を立てているナスの頭を撫でるとようやく警戒を解いてくれた。


「あら、いいわね貴女。良く信頼されてるじゃない」

「分かるんですか?」

「魔獣達の顔を見ればわかるわよ。その点レベッカは表情が変わらないから分かりにくいのよね」

「爬虫類ですからね。でもそれを言ったら僕のヒビキも表情変わらないのは同じなんですけど」

「きゅー?」

「表情が変わらなくても身体全体で表現してくれるから分かりやすいんですよね」

「分かるわーそれ。レベッカも同じなのよ」

「しゃー」


 ジーンさんがレベッカさんの胴を撫でるとレベッカさんは激しく尻尾を振り出した。


「んふふ。じゃあ私はもう行きますね。皆を預けに行かないといけませんから」

「そう。私はもうちょっとお散歩しているから、他の魔獣達に会いたかったら夕方に預かり施設に来て頂戴」

「分かりました。それでは後で」


 時間を取ってしまった。ジーンさんと別れると僕は速足で預かり施設へ向かう。

 その途中でディアナが姿を現した。


「すごい物を見てしまった」

「ディアナ……変な声上げて急に消えるのは止めてね。すごく失礼だと思うよ」

「あれを見て平気なナギの方がおかしい」

「気持ちは分かるけど、我慢しようね」

「ナギも我慢してた?」

「それは……まぁ少し怖かったよ」

「そうね。確かに怖かった。あの蛇」

「厳つい顔してたもんね……ってレベッカさんの方を怖がってたの?」

「他に何か?」

「ジーンさんの顔を怖がってるのかと思ったよ」


 ジーンさんは化粧で誤魔化しているようだが、いわゆる悪人顔の厳つく人を威圧するような顔立ちは隠しきれていなかった。

 表情はとても穏やかだったが子供が見たら怖がりそうだ。


「人の顔を見て怖いとかナギ失礼」

「うっ、ごめんなさい」

「ナギは蛇平気なの?」

「平気だよ。レベッカさんとかかっこいいじゃない」 


 女の子って蛇が苦手な子が多いからな。


「ナギってやっぱ男の子」

「蛇が平気な女の子だっているよ」

「例えば?」

「蛇の話題なんて出した事ないから分からないよ。フェアチャイルドさんに聞いてみたら?」

「ん。聞いてみる。……見た事ないから分からないだって」

「あー、まぁそうだよね。ディアナはレベッカさん以外で見た事あるの?」

「精霊の森にいた。レナスがいた時は追っ払ってたから見た事ないのかも」

「そっか」


 話しているうちに施設に辿り着いた。

 魔獣達を施設に預けると外に出て時間を確かめる。今はお昼前。そして今日は平日。アイネ達は学校にいるだろう。

 夕方までは時間がある。ちょうどいい機会だ。用を終えたら気球の実験をしよう。

 今までは旋根探しや訓練やらでなかなか時間が取れなかったが、グランエルでは三日間ぐらいゆっくり滞在する事になっているから時間に余裕はある。

 僕は早速フェアチャイルドさん達と合流し実験の事を伝えた。




 僕がまず用意した気球の風船部分は僕の身長ほどある。

 蔦をより合わせて丈夫な縄を作り骨組みにして丈夫な布を縫い付けて作った物だ。すでにブリザベーションは掛けられている。

 風船部分を地面によく広げる。そして、その風船の空気を入れる部分に僕が作った魔法陣を封印した魔法石を取り付け、風船を用意した横にしてある籠に繋げる。

 まず最初は魔法で空気を送り風船部分を膨らませる。魔法だけあって大した時間もかからずに十分にカボチャのように膨らんでくれた。


「あらぁ? ナギさん。この膨らんでる布、反対側にも穴が開いていますよぉ?」

「あっ、火を今から点けるので危ないから覗き込まないでください。それと頂点部分の穴は高度を調整するための物です」


 カナデさんが指摘した穴と言うのは空気を排気する為の物だ。

 円形に開けられた穴を紐で繋いだ円形の布で覆い、布に繋がった紐を引っ張れば穴が開かれるようになっている。


「高度を?」

「はい。穴を塞いでいる布をこの紐で引っ張って気球に溜まった空気を抜いて高度を下げるんです。引っ張り具合によって空気を抜く速度を変えるんですよ」

「はぁ~なるほどぉ」

「今回の実験ではこの操作をサラサにやってもらいたいんだけどいいかな?」

「任せなさい」

「サラサで大丈夫? 肝心な所で失敗するよ? 私の方がいいと思う」


 胸を叩いて自信満々に応えたサラサに対してディアナが横から茶々をいれてくる。


「大丈夫に決まってるでしょ! 私を何だと思ってるのよ!」

「サラサには傍で魔法石で生み出した火がどんな働きをするのか、今後の為にも近くで見ていて欲しいんだ。

 ディアナも乗りたいんだろうけど、今回は我慢してね?」

「私は別に乗りたいわけではない」


 そう言ってディアナはそっぽを向いてしまった。


「じゃあ火をつけるから皆離れて」


 フェアチャイルドさんとカナデさんが十分に離れたのを確認すると風船の中に空気を送りつつ魔法石を手に取り魔力(マナ)を送り、魔力(マナ)の糸を繋いだまま手を放して封印された魔法陣を発動させる。

 魔法石から風船の中に向かってバーナーのようにゴウゴウと音を立てて激しく火が燃え始めた。

 徐々に風船部分が浮き上がっていく。

 想定通りの魔力(マナ)消費量だ。これなら二時間くらいは飛ばしていられるだろう。

 だけど、今回使っている魔法石はあくまでも小さな気球に合わせた物だから、もっと大きな気球だと僕の魔力(マナ)量では大して飛ばせないだろう。

 もしかしたら膨らませるだけで精一杯かもしれない。やはりヒビキがいない場合は精霊の力が必要だ。


「すごいですねぇ。本当に浮いてますよ~」


 カナデさんは感心した風に軽い調子で手を叩いている。

 風船部分が地面から離れ始めたら籠の部分を立たせる。


「サラサ、そろそろ籠の中に入って貰える?」

「私飛べるわよ?」

「気分の問題だよ。気分の」

「気分の問題なら仕方ないわね」


 分かって貰えて何よりだ。やはり気球なんだから籠に乗ってこそだろう。

 サラサはその小さな体躯がちょうど収まる位の小さな籠の中に入る。

 入る途中に籠が浮き上がってしまった。サラサは精霊だったからよかったけれど、人が乗れる気球だったら危なかった。

 さらに飛んでいかない様に籠の部分をしっかり掴んでおく。


「ちゃんと留めとかなきゃ駄目だったか」


 なんで気づかなかったんだろう。次からは気を付けないと。


「レナスさん浮いてますよぉ!」

「流石ナギさんです!」

「サラサ、高度が取れたら紐を引っ張って高度調整してくれる?」

「それはいいけど、ナギ。これ風に煽られて動こうとしてない?」

「うん。そういう乗り物だし」

「ナギがいないのにどうやって戻ってくればいいの?」

「戻ってくる時はサラサが押して戻ってこれない?」

「……そこは手動なのね。ディアナ、ライチー、二人も外から支えて」

「はいはい」

『わーい!』

「頼んだよ」


 手を籠から離すと気球がさらに上昇していく。

 なんとなく上昇速度が速い気がする。あまり急に上昇するのは確か身体によくないはずだ。これもまた実験課題だな。メモしておこう。


「サラサ、火力の調整行うから少し揺れるかも」

「大丈夫よ。私は気にしないで実験しなさい」

「分かった。ありがとう」


 火力の調整は魔法石に送っている魔力(マナ)を調整すればいい。


「結構高くまで行ったな。フェアチャイルドさん。そろそろサラサに紐を操作してくれるように伝えてくれる?

 最初はゆっくりとね。異変を感じたらすぐに操作をやめて、落ちそうになったらすぐにこっちにも伝えて欲しい」

「はい。……伝えました」


 高度は大体建物二階分の高さに達している。

 僕が火力調整を行わなくても気球が上下している。どうやら仕掛けは一応成功しているみたいだ。


「……よし。サラサにもう操作しなくていいって伝えて」

「もう終わるんですか?」

「今は仕掛けの確認が出来ただけで十分だよ。後は人のいない所で耐久性の実験を行いたいかな」

「耐久性って何をするんですか?」

「あの気球がどこまで上昇できるか、仕掛けをどれだけ乱暴に扱ったら壊れるか、かな」

「わざと壊れるような事をするんですか?」

「どうやったら壊れるか分からないと人を乗せて実験なんて出来ないよ」

「それは……たしかに」

「精霊達がいるからそこらへんは実験しやすくていいよね。

 あっ、大分流されちゃってる。

 フェアチャイルドさん。降ろす実験もするからサラサ達に戻ってきてもらうように伝えてくれる?」

「は、はい」


 いくら前世の記憶があるからと言っても気球を作った事なんて一度たりとも無い。なのに初めて作ったにしては順調すぎて少々怖いな。

 油断せずに行かなくては。

 旅をしながらの実験だが一体どれだけの時間がかかるだろう。もういっその事誰かに丸投げしたい気分だ。

 でも丸投げにするにしてもある程度は安全性とかを保障し、注意点の洗い出しをしないとさすがに無責任だろう。

 空へ続く道はまだまだ遠そうだ。

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