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二人の夜

 夜、寝ようと僕は部屋のライトを消そうとすると、ライチーが僕の寝巻の袖を掴んできた。


「……ライチー。夜は一人で絵本を読んでるって約束したよね」

『うー……』

「それでもやっぱり寂しい?」

『うん……』


 精霊は眠らない。だから、僕とライチーしかいないこの状況では僕が眠るとライチーは一人で夜が明けるのを待たなければならない。

 普段ライチーはサラサやディアナと一緒に起きているので寂しくないんだろう。

 だけど今日からは一人だ。その寂しさを紛らわす為に昼に絵本を購入したんだ。


「分かった。僕も一緒に起きてようか」

『……いいの?』

「その代わり朝、日が昇ったら寝る事にするよ。その時間ならナス達も起き出すからさ、朝ご飯用意しに行って、ライチーはそのまま皆と一緒に待ってるんだ。どうかな?」

『ナギ……うん。それがいい』

「んふふ。じゃあ決まりだね。絵本読んであげようか。読みたい絵本選んで持って来て」

『うん!』

「あっ、もう遅い時間だから静かにね」


 念の為に『ウィンドウォール』を部屋の壁と床、そして天井に張り声が隣の部屋に漏れないようにしておく。

 しばらくの間魔力(マナ)を使う予定があるので空にしていなかったから余裕がある。一晩くらいなら維持し続けられるだろう。

 問題は、明日は仕事受けられるだろうか? これからもライチーが夜一人でいるのを嫌がった事を考えて午後か夜に受けられる依頼を探した方がいいかもしれない。


『ナギーこれー』


 ライチーはふよふよと宙に浮かびながら僕に三冊の絵本を渡してきた。

 そして、絵本を渡し終えるとライチーは僕をベッドに腰かけるように身体を押してきて、僕が腰かけると膝の上に座り身体を預けてきた。


『えっとね、えっとね、さいしょはこれ!』


 僕はライチーから絵本を受け取り、ライチーにもよく見えるように絵本を置き読み始めた。




 窓の隙間から光が差し込んでくる。

 どうやら朝になったようだ。窓を開けてみると外は曇り空だけれど雪は降っておらず朝日が雲の隙間から世界を照らしている。


「ライチー、朝になったみたいだね。ナス達の所に行こうか?」

『うん!』


 ライチーは大きく頷くと僕の膝の上から浮かんで離れた。

 絵本を机の上に置いてある物とまとめて金庫の中に入れて鍵を閉める。

 眠気で少し頭がぼーっとする。

 ライチーはもうフェアチャイルドさんの姿になっている。僕も着替えなくては。

 昨日着ていた服はもうつけ置きしちゃってるから着れない。

 ああ、そうだ。洗濯もしなくちゃいけないんだ。


「ライチー……じゃなかった。フェアチャイルドさん。ごめん。ちょっと洗濯してから行くね。ここで待ってて」

『わかったー』


 そうして部屋を出ようとした時見えないクッションのようなものに阻まれた。

 いかんいかん。ウィンドウォールを展開したままだった。頭がぼけてるな。ついでに顔も洗って来よう。

 宿屋に備え付けられている洗いどころで顔と服を洗い部屋に戻る。

 そして、宿を出る時にライチーには元の姿に戻ってもらう。

 ライチー自体は精霊として宿屋の主人に紹介しておいたけれど、フェアチャイルドさんの姿は欺瞞工作の為に紹介するわけにも説明するわけにもいかない。

 今回宿を出る前にフェアチャイルドさんの姿になったのはライチーの先走りだ。

 宿を出て人がいない事を確認するとライチーに変身してもらい施設へ向かう。

 施設に着くとナスとヒビキが僕を迎えてくれた。

 もふもふとした抱き心地と小屋内の絶妙な温度調整によって眠りに落ちそうになってしまう。

 いかん。いかんですよ。早く朝ご飯用意しないと。

 マナポーションを作り僕は魔獣達に話しかける。


「ライチーにお昼までここにいてもらうから、皆仲良くね」

「ぴぴーぴー?」


 ナスがどうしてライチーを置いていくのか聞いてきたので素直に答える。


「ちょっと徹夜明けでね、これから僕寝るんだ。ライチーには寂しくない様に皆と一緒にいて欲しいんだ」

「ぴーぴー」

「え? ここで寝て行けって? いいのかな……」

「きゅー」


 ああ、ナスとヒビキが僕にすり寄ってくる。やめてくれ、このもふもふは今の僕に効く。


「ううっ。抗えない……」


 もふもふには勝てない……が、せめて最後まで抗おう。僕がナスやヒビキに抱き着いたまま寝たらライチーが二匹と遊ぶ事が出来ない。

 ほとんど閉じかけている視界で野営の時に使う毛布を取り出しくるまる。


「ナス、アース、ヒビキ、ライチーの事……お願いね……遊んで……あげて……」


 こうして僕は深い眠りに落ちた。




 目が覚めると僕は上半身を起こしながら周囲を見回す。

 傍にはアースがいてどうやら寝ているようだ。

 ナスとヒビキはライチーと楽しそうに遊んでいる。

 だけど不思議と音が聞こえてこない。

 僕が起きた事に気づいたのかライチーが僕に手を振ってくる。

 ナスが僕の方を向くと同時にライチーの声が聞こえてきた。


『……ぼー。ナギー』

「……おはよう皆。声が聞こえなかったのってナスの仕業?」

「ぴー」

「そっか。寝てた僕に配慮してくれたんだね。ありがとうナス。それでごめん何かなライチー? よく聞こえなかったんだ」

『いっしょにあそぼーっていったのー』

「うーん……いいよ。なにしてあそんでたの?」


 時間を確認したい気もするけど、お腹が空くまで相手をしてもいいだろう。

 少しの時間皆と遊んだ後、魔獣達にお昼の用意をしてから僕自身がお昼を食べる為に外に出た。

 時間は正午を過ぎた頃。ライチーには透明になって貰いお店を探す。

 ライチーはご飯を食べられないから、フェアチャイルドさんの姿で一緒にお店に入ると、フェアチャイルドさんだけお昼を食べないという不自然な光景になってしまう。

 お店を探す途中、あの男の子が僕がいる通りにやってくるのが分かった。

 あの日からずっと魔力(マナ)を繋ぎっぱなしなのであの子の行動は手に取るように分かっている。

 このまま歩いているとすれ違う。どうしよう。適当にお店に入ってやり過ごしてしまおうか。

 僕は少し考えた後、そのまま通りを歩く事にした。

 勝負が決した時の怯えた表情がどうにも僕の脳裏にちらつく。もう一度会ったら男の子はどういう表情をするだろうか?

 反省の色があればそれでよし。憎しみが篭っていたら注意しなければならない。

 僕はわざと男の子の前に出るように歩き、ついに顔を合わせる。

 男の子は驚いた顔をした後気まずそうにしながらも顔を背けそそくさと僕の横を通り抜けた。

 怯えと恨みを持った眼だった。今は怯えが強いから逃げるように去ったけれど、恨みが募ったらどう出てくるか分からない。気を付けるに越した事は無いか。


『ナギーだいじょーぶ?』


 姿を消しているライチーの声が耳元から聞こえてくる。


『むずかしそーなかおしてた』

「大丈夫だよ。それより早くお店選ばないとね」


 気を取り直して僕は通りにある食事処を外から見て回り、温かいスープが美味しかったとお店から出てきた人達の言葉に惹かれお店を決めた。

 そして、お昼を食べた後僕は組合へ向かう。

 そして組合の訓練場に行き依頼を見る前に朝出来なかった訓練を行う。

 今日からは一人なのでお金を払って教官を雇う事にした。

 教官にも階位というのがあり、自分と同じ階位に教官は適正価格で、下なら割引、上なら割高になる。

 これは多分自分の実力と懐具合に見合った相手を選べという事だろう。

 さらに戦闘方法で値段も変わる。僕のように魔法も剣も使う万能な戦い方だと値段が高くなる。教える手間が増えるから値段が高くなっているのだろうか? どちらか一方なら三割引き位の値段のようだ。

 僕はとりあえず自分と同じ第二階位の教官で剣盾と魔法を選んだ。

 そして、実力を見て貰う為に最初に手合わせした結果、僕は第四階位の教官に学んだ方がいいと言われた。

 剣盾だけなら第三階位で魔法だけなら第五階位の腕前があり、間を取って第四階位を勧めたらしい。

 剣盾には結構自信があったので第三階位と言うのがショックを受けたが、詳しく聞くと身体能力がまだ子供だからか低く、技術面だけなら第四階位には達してしているらしい。

 そして、技術面を差し引いても今の僕では実戦経験のある第四階位以上の冒険者には勝てないと断言された。

 魔獣使いの職業には身体能力に対する補正がないから仕方ないか。

 でも今の僕でも剣盾だけで第四階位に上がる事は出来るだろうとお墨付きを貰えた。

 課題は身体能力か。でも今は焦って身体を鍛えるよりも成長を待った方がいいかもしれない。

 とりあえず教官の助言通り明日からは第四階位の教官に頼む事にしよう。

 訓練の終わり際に教官から第四階位の教官を適正価格で雇う事が出来る許可と、認印の入ったカードを渡された。

 このカードがあればカードに書かれた階位の教官まで適正価格で雇う事が出来るようになるらしく、また他の都市の組合でも効果があるんだとか。

 もっとも、前線基地に近い都市や首都や王都でもない限りは教官がいる組合は珍しいから出番はあまりないかもしれない。

 何はともあれいい物を貰い意気揚々と待合所へ行き依頼を確認する。なるべく午後からの仕事がいいのだけれどあるだろうか?

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