表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/530

ライチー大変身

 魔獣達との触れ合いの後食事を用意し終わるとライチーが僕の服の袖を引っ張ってきた。


「どうしたの? ライチー」

『あのねー……えっとねぇ……みてて』

「うん?」


 意図が分からなくて首を捻るとライチーは突然白く輝き始めた。

 眩しくて手で光から目を守ろうとすると光は弱まった。

 ライチーが光っているのは変わらず、ただ光量だけが減った様に見える。

 ナスの方を見るとぴーと鳴いた後残りのマナポーションを飲みだした。多分ナスが助けてくれたんだろう。

 光が収まるとライチーがいた場所にはフェアチャイルドさんが立っていた。

 いや、髪がおかっぱだ。ライチーが大きくなったんだ。


『どーお?』

「ライチー? もしかして成長したの?」

『うーうん。ちがうよ。あのね、えとね、えっと』

「落ち着いて。ゆっくりでいいからね」

『えと……わたしね、マナをね、うすくしてレナスにみえるようにひろげたの』

「なるほど。フェアチャイルドさんに見えるように、目で見える身体の部分を作り変えたんだね」


 さらに詳しく言うなら身体を作っていた魔力(マナ)をいつもよりも薄くして体積を広げたんだろう。


『うー……うん? そうかなー? そうかも』

「それで身体維持できるの?」

『えとね、えとね、サラサがね、たりないぶぶんは、わたしのちからでおぎなえっていってたの』

「そっか。ライチーは光の精霊だから……フェアチャイルドさんの姿を部分的に映してるんだね」

『うん!』

「でも髪短いよ?」

「あれー? えい!」


 ライチーが気合を入れたのか髪に光が集まり、一気に髪が伸びた。


「すごいすごい。そっくりだ。でもどうしてライチーはフェアチャイルドさんの姿になったの?」

『サラサがね、これでしばらくごまかしてこいっていったの』

「……囮に使うのか」


 精霊だから怪我をするという事はないだろうけど、大丈夫だろうか。


「それはフェアチャイルドさんは知ってるの?」

『レナスにはないしょだって、サラサいってた』

「知らないのか……でも確かにこれなら数日は誤魔化せるだろうな」

『レナスのやくにたてるかなー?』


 ライチーは心配そうな顔で首を傾げてくる。


「うん。立てるよ。そうだ。今日からライチーの事フェアチャイルドさんって呼んだ方がいいかな。きっとその方がばれないよ」

『わたしフェアチャイルド?』

「うん。姉妹みたいな物だしライチー=フェアチャイルドでもいいんじゃないかな」

『レナスといっしょ! レナスとおなじなまえ! うれしー!』


 ライチーは嬉しそうにフェアチャイルドさんの姿で宙に浮き踊り始める。

 本物では見られない表情と踊りだ。眼福眼福。

 あっ、スカートの中も見えてしまう……ってスカートの中は真っ暗で何も見えない。フェアチャイルドさんのスカートの中は暗黒空間だったのか。って違う。


「ライチー……じゃなくてフェアチャイルドさん。本物は浮いたりしないよ」

『あっ、そーだった!』

「ちょっとここで練習しておこうか?」

『うん!』

「んふふ。僕はずっとフェアチャイルドさんと一緒にいたからね。彼女に関してはちょっと自信あるよ」

『わたしだってあるんだから!』


 ライチーは胸を張る。どうやら胸はパッド入りバージョンのようだ。

 そして、検証の結果ライチーは相変わらず公用語が使えない事が分かったのでフェアチャイルドさんになりきっている時は喋らない事に決まった。

 黙っていれば大丈夫だろう。


「その表情保っていられる?」

『んー。がんばる』


 ライチーはフェアチャイルドさんらしい涼やかな表情をしている。

 これはライチーが写し取ったフェアチャイルドさんの顔を張り付けただけの物だ。


「ぴーぴー」

「ん? どうしたの? ナス」


 ナスが見て見てと僕の腕に前足を当ててくる。


「ぴー」


 ナスが一鳴きすると空中にフェアチャイルドさんが出てきた。ただし平面の。


『レナスだ!』

「おお、すごいじゃないかナス。ライチーの真似したの?」


 雷霆の力で光を操って写真のように写しているのか。色までついてるという事は可視光線まで操っているのか。なんて器用なんだ。それとも想像しただけで再現できているのだろうか?


「ぴー」

「んふふ。すごいねー」

「ぴーぴ?」

「え? これで役に立てるかって? うーん。ナス、さすがにこれじゃあ無理だよ。ほら、横から見たらバレバレじゃないか」

「ぴぃ……」

「でもすごいねナス。フェアチャイルドさんの姿をここまで再現できるなんて」

『ナスすごいすごいー』


 ライチーがナスを撫でると、ナスは不思議そうに首を傾げた。

 きっと触られた感覚が殆どなかったからだろう。今のライチーは触れたらすり抜けるほど存在が希薄になっている。

 例えるなら風に触れているような物だ。


「ナス。このフェアチャイルドさん動かせる?」

「ぴー」


 ナスは二次元のフェアチャイルドさんを動かし始めた。

 動き方は滅茶苦茶で骨格が不味い事になっている。ライチーはフェアチャイルドさんの姿から元の小さな姿に戻り悲鳴を上げ僕に抱き着いてきた。


『こわいー!』

「ナス。人はそんな風に動かないんだよ」

「ぴぃ……ライチー、ごめん、なさい」


 ナスは奇妙に動くフェアチャイルドさんを消して謝る。


『うー……』

「あはは……ナス。暇な時僕と一緒に練習しようね」

「ぴー?」

「ナスのやった奴さ、もっと練習すれば子供達に喜ばせる事が出来ると思うんだよね。たとえばルイスにナスの旅での活躍を今ので再現して見せるとかさ」

「ぴー!」

「んふふ。やる気になった? じゃあ空いてる時間が出来たら一緒に練習しようね」

「ぴー」

「さて、それじゃあライチー、フェアチャイルドさんの姿になって少し街中を歩こうか?」

『分かった!』


 ライチーは再びフェアチャイルドさんの姿になる。

 ちゃんと地面に足を付けて歩き出す姿はまさにフェアチャイルドさんそのものだ。


「あっ、ライチー。靴の裏だけでも実体化出来ないかな?」

『どーして?』

「足跡が付かなかったら不自然だからだよ」

『そっか!』

「出来る?」

『できるー!』


 ライチーはすぐにステップを踏み音を鳴らした。

 魔獣達に別れを告げて外に出ると光の当たり具合や影もきちんと太陽の位置と合っている。さすがは光の精霊か。


「らい……フェアチャイルドさんって影も作れるんだね」

『んー? なぎはつくれないの?』

「……どうだろう。魔法で影か。確かに試した事ないな」


 やるとしたらナスがやっているように光を屈折させて影を作るんだろうけど、出来るだろうか?

 歩きながら試しに光を屈折させるイメージで生活魔法として試すが成功の手ごたえは全くない。これは僕の魔力(マナ)の量が足りないのかそれとも技量が足りないのか。


「ら……フェアチャイルドさんはどういう風に影を作ってるの?」

『あのねー、くろくなれーってやってるの』

「黒くなれか……」


 発想を逆転させればいいのかもしれない。影が作れないのなら、黒い光を作ればいいじゃない的な。

 試してみるとこれは結構簡単に出来た。黒い光というのも変な話だけど、黒いライトを想像したらできてしまったのだ。作り出すのにかなり魔力(マナ)を持っていかれてしまった。

 そもそも黒と言うのは光を反射させないで吸収するから人の目には黒く見える訳で、黒い光なんて存在しないはずだから塊と言った方が正しいか。

 自分で作っておいて言うのもなんだけれど、なんだろうこれは。

 生み出された物は漆黒の球状の物で形は自由に変えられるけれど、影のようにするには光を通さなすぎる。影と言うのは別に漆黒と言う訳じゃないんだ。

 触ってみても何かが特別ある感触はない。魔力(マナ)に色でも付いたのだろうか?

 そうか、魔力(マナ)に色を付けるイメージで試せばよかったのか。

 色が薄くなるイメージで魔力(マナ)を操ってみると色が徐々に薄くなり最終的に透明にする事が出来た。


「維持したり濃さを変えるのはあんまり魔力(マナ)使わないなぁ。これなら他の色も出来るかな」

『ナギもわたしみたいにできるかなー』

「んふふ。どうだろうね」


 実験をしつつ僕は気になっていた事をライチーに聞く事にした。


「ねぇらい……ライチー。まだフェアチャイルドさんを泣かせた事、怒ってる?」


 少し迷ったが僕はライチーとしての回答が欲しかったのであえてライチーと呼ぶ事にした。


『……まだちょっとおこってる。でもサラサはナギはわるくないっていってたから……よくわかんない』

「そっか。それでも……僕の傍にいる事を選んだんだね」

『レナスのためだもん』

「……ライチーはフェアチャイルドさんの味方でいてあげてね」

『レナスはわたしのともだちだよ?』

「んふふ。そうだね。僕が言う事じゃないか」


 きっとライチーとフェアチャイルドさんの二人の絆は僕が心配する必要なんてないくらい深い物だろう。

 話しているうちに実験はすべて成功。色のついた魔力(マナ)で絵を描く事も出来るようになった。これで子供達に絵本を読みながら動画を見せる事が出来るだろう。

 施設を出た後僕はとりあえず組合の中に入り中の様子を窺う。

 まだ早い時間だけれど依頼用の掲示板がある待合所はすでに混雑している。

 あの男の子はまだ資格を一時停止されているからこの場にはいない。なのでライチーには待合室の隅で待っていて貰って堂々と受付に行き治療の依頼の有無を聞き、来てない事を確認してから午前中に終わる依頼の有無を聞いた。

 目的の依頼は無かったので念の為掲示板も覗いたがやはり条件に合うものは無かった。

 午後から宿探しをしようと思っていたから時間が空いてしまった。

 ならば訓練をしようかとも思ったけれど、ライチーには退屈だろうなと思いせめて訓練は街を見て回ってからにしようと決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ