話し合い
アッテンボローさんとの話し合いを終えた後僕は魔獣達の所に戻り、そこでカナデさんと合流し魔獣達のお世話を済ませた。
カナデさんにフェアチャイルドさんの事を聞くと、どうやら組合の方でも会っていないらしい。宿だろうか?
宿に戻ってみるとフェアチャイルドさんはいた。
しかし、僕達が帰ってきた事に気づいた様子はなく備え付けの机の椅子に座り花を手に持ち物憂げに溜息をついている。
「なんだか悩んでるみたいですねぇ」
「うん……」
「そうなのよ。帰ってきてからずっとあの調子なの」
サラサが僕の頭に乗って来た。
ライチーは遠巻きに僕を見て視線が重なると気まずそうに顔を逸らした。ライチーとはあれ以来微妙な関係だ。
僕はまったく怒っていないのだけどサラサに言い聞かされた事により僕を叩いた事に罪悪感を覚えてしまったようだ。
一度話しライチーの事を嫌っていないと伝えたのだけれど、それでも距離があるのはフェアチャイルドさんが関係しているんだろう。
ディアナは普段と変わらず宝石の中に入っている為どんな様子なのか分からない。
サラサは頭の上に乗ったままカナデさんに手招きをして耳元を近づかせてまるで内緒話するかのような声量で語り出した。
「あの花、男の子からのプレゼントなのよ」
「え」
「男の子からですかぁ?」
「そうそう。同じ冒険者でね、相手はまだ第一階位なんだけど一昨日位からレナスの働いてるお店に顔を見せてたんだけど、今日花を贈ったのよ」
「そ、そうなんだ。つ、ついにフェアチャイルドさんにそういう相手が出来たんだ」
「はわわわっ、レナスさんにもついに春が~」
「しかもデートに誘っていたわ」
「でぇと!?」
お、落ち着け僕。これは僕が望んでいた事じゃないか。
僕は彼女にいろんな出会いをしてほしい。それは冒険者としてだけではなく、男女の関係も含めて。
色んな人と関わればそれだけ彼女は見識を広げる事が出来、自分の幸せを探す手助けとなるはずだ。
もちろん悪い男に引っかからないように注意しないといけないけれど。
「皆さんさっきからうるさいです」
フェアチャイルドさんが花を机の上に置き眉を顰めて僕達の方を向いた。
「ご、ごめん」
「すみません~」
謝ると溜息交じりに続けた。
「私はデートに行く気はありません」
「え? そうなの?」
無意識に安堵の溜息が出た。それに気づいた僕は自分の心が漏れ出ないように気持ちを締め直す。
「どうしてですかぁ?」
「興味ないですし、乱暴な人なので嫌いです」
「……そ、そっか。乱暴なんだ。それじゃあ仕方ないね」
「残念ですね~」
「それじゃあ花を見て溜息をついてたのは」
「……実は困ってるんです。どう断ろうかと」
フェアチャイルドさんは後ろに隠れていたライチーを膝の上に乗せ抱きしめた。
ライチーは首だけ動かし心配そうにフェアチャイルドさんの顔を見上げている。
「普通に断ったら駄目なの?」
「何度も断ってるのにしつこく誘って来たんです。それも仕事の最中に。
それで逃げようとしたら無理やり花を渡してきたんです」
「それは迷惑だね。そんなにしつこいんじゃ仕事終わりの帰り道で待ち伏せされそうだけど大丈夫だった?」
「今日は出待ちしていたようですけれどライチーさん達が教えてくれたので会わずに済みました」
「なるほどぉ。参考までにどうやって断ったか教えてくれますかぁ?」
「カナデさんに教わった通り無表情で理由も告げずに嫌ですと言い続けました」
「ふぅ~ん。そうなると相手にしたのがまずかったかもしれませんねぇ。
それでしたら距離を置きたい所ですけどぉ、依頼の方はあと何日位残っていますかぁ?」
フェアチャイルドさんは今食事処で手伝いの仕事をしている。
第二階位になってから受けられる類の依頼で、前世で言う所のアルバイトのような扱いだけれど、あらかじめ期間は決められていて冒険者にとってはよくある普通の依頼だ。
「あと三日です」
「あと三日ですかぁ。最悪の事態を考えて問題になる前に対処しないといけませんねぇ。もしも相手が問題を起こしたらレナスさんまで信用を落としてしまいますよぉ」
「うぅん……でも具体的にはどうしたらいいんでしょう? お店側に頼んで来ている間だけ裏方に回してもらうとかですかね」
「そうですねぇ。それがいいと思いますよぉ。他にも相手を見張る事が出来ればいいんですけどぉ、私はまだお仕事の期間が残っているんですよねぇ」
「それは僕がやりますよ。丁度昨日終わっていますから」
「じゃあアリスさんにお願いしましょう~。それでぇ、相手の顔はサラサさんは分かりますかぁ?」
「ええ。ばっちり覚えているわ」
「じゃあアリスさんと一緒に見張りに回って貰っていいでしょうかぁ? 顔が分からないと見張りようがないのでぇ」
「ええ、任せて頂戴。レナスにちょっかい出す奴は許さないわ」
「お手柔らかにね? 問題を大きくしたらフェアチャイルドさんが傷つくんだからね?」
「わ、分かってるわそれくらい」
「とりあえず依頼が終わる間をしのぎましょう~」
「あの、その後はどうしたら?」
「ん~、冒険者ですからこの都市を出ていけば普通は解決するんですけどぉ」
「問題は僕が一緒にいると行先がばれやすいって事ですよね」
「ですねぇ」
「それは……魔獣達がいるからですか?」
「うん。アースとか目立つからね。相手がならず者だったら兵士に突き出せば済むけど、相手はそういう訳じゃないんでしょ?」
「はい……今の所はしつこくて言動が乱暴なだけです」
「だよね。もしも都市を出るなら僕達は別行動するしかないね」
「それは……嫌です」
「これは最終手段だよ。さすがにそこまでする必要があるとは思ってないから。
あくまでも最悪の場合だね。
僕は依頼が終わったら一度会って改めて話し合った方がいいと思う。
……それで相手が諦めないでしつこく付きまとわれたら都市は出た方がいいと思う。僕とは一旦別れてね」
「……」
フェアチャイルドさんは口を尖らせている。納得していないみたいだ。
「あっ、一応組合の人にも相談してもらった方がいいですかね」
「そうですねぇ。冒険者同士の問題ですしぃ、あまり積極的には介入してこないかもしれません~。
でもぉ話し合いの時の立会人にはなってくれると思いますよぉ」
「じゃあそうしましょう。話し合いの時は僕とカナデさんどっちが一緒にいます?」
「そうですねぇ……ここはレナスさんに決めてもらいましょう」
「私が決めるのですか?」
「はい~。私は経験はアリスさんよりはあるでしょうけど、信頼はアリスさんには勝てませんからぁ。レナスさん自身が決めた方がいいと思いますぅ」
「それなら……」
「フェアチャイルドさん。今回の件に関しては僕も経験はないから自信はない。それを踏まえて決めて欲しい」
「……それでも、私はナギさんがいいです」
「本当にいいの?」
「はい。私は選べと言われたらナギさんに傍にいて欲しいです」
「それは嬉しいけど……」
「うふふ~。レナスさんが決めたんですからいいじゃないですか~」
「……そうですね。分かったよフェアチャイルドさん。僕頑張るよ。と言っても何したらいいのか分からないけど」
「話し合いはレナスさんがやるべきですからぁ、護衛ですねぇ。怪しい行動しそうだったらすぐに取り押さえるんですぅ」
「なるほど。それだったら自信はあります」
ぱちぱちっと電気を走らせる。
僕にはサンダーインパルスがある。これさえあれば相手を動けなくする事はたやすい。
「それは本当に危ない時に使いましょう~。具体的には力で負けそうな時ですねぇ」
「分かりました」
「さて、それでは早速明日の確認をしましょうかぁ」
「僕はサラサと一緒に男の子を見張るんですよね」
「はい~。とりあえずアリスさんは男の子がいないかどうか組合に顔を出してみましょう~。あっ、男の子が来る時間は決まっているんですかぁ?」
「えと、大体私の仕事の時間が終わる頃にやってきます」
「それって忙しい時間?」
「いえ、正規の従業員の人達が休む時間ですので忙しい時間ではありません」
「一応確認しておくけど、その時間裏方の人と交代しても問題なさそう?」
「大丈夫だと思います。同じ冒険者の方と接客と裏方交代で働いているので」
「それなら一応その冒険者の人にも話を通してお願いしておいた方がいいね。女性?」
「はい。私よりも年齢は上の人です」
「じゃあお菓子包んでお願いしようか」
「それはいい考えですねぇ」
「とは言っても今からだとお店は閉まっちゃってるかな」
「それでしたら私が明日朝一番に買いに行きます」
「物はフェアチャイルドさんが無理なく買えて値段の高い物がいいかな。安物だと軽く見られてると思うだろうし、逆に無理して買ったと思われると遠慮しちゃうかもしれない。そこら辺の匙加減は……カナデさん分かりますかね?」
「ん~、難しいですねぇ。でもそうですねぇ。朝一番なら私も時間に余裕はありますしぃ、ご一緒した方がいいかもしれませんね~」
「とりあえず僕は組合に行って男の子を探して見張る。フェアチャイルドさんとカナデさんは朝一で買い物でいいのかな?」
「はい~。その後は各々やる事をやりましょう~。それでぇ、レナスさんが帰る時間になったら私とアリスさんが一緒にレナスさんと帰りましょうか~」
「それがいいですね。サラサ達が探ってくれると言っても何があるか分からないし一緒にいた方がいいよ」
慎重すぎるかもしれないが一応僕達は女だけなのだ。用心に用心は重ねた方がいいだろう。
フェアチャイルドさんを守らなければ。
僕は話し合いをしながら普段から誓っている決意をより一層強く固めたのだった。
気づけば投稿を始めて一年が過ぎていました。
皆様のおかげでここまで来ることができました。今後ともなにとぞ変わらぬご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。




