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再会

本日は二話更新です

 トンネルを抜けると評判の通りアークの町並みが見えた。

 日が暮れ始めているがそれでも丘のように隆起した土地に建てられた色とりどりの建物は遠くからでも十分判別がつく。


「グランエルよりも広いですね」


 フェアチャイルドさんが感心したように呟いた。


「さすがアーク王国最大の人口を誇る首都だよね」


 要塞からアークまでは半日かかると聞くが、本当にそこまでかかるだろうか?

 中心部なら確かにそれぐらいはかかりそうだが、端の方ならそんなにかからないのではないか?

 そういう疑問を口にしてみた所カナデさんから答えが返ってきた。

 端の方は民家ではなく拡張されて作られた倉庫街で、その手前に数件安い宿屋があるだけらしくアークまでというのは人の住む地区の事を言うらしい。

 倉庫は要塞で使われる食料や備品を格納しているんだとか。


「とりあえず近くの宿屋に泊まりましょう」


 カナデさんが指さした先には街道沿いと思わしき場所に建物が立ち並んでいる。

 僕達は大型の魔獣用のトンネルからやって来た為街道から外れている場所にいるんだ。

 今からアースに乗って爆走しても倉庫街に着く頃には真っ暗になっているだろう。それだったら宿屋に泊まって明日の朝向かった方がいい。

 カナデさんの提案にさらに僕がなるべく首都に近い所にしようと追加で提案した。

 なるべく明日は早く首都に着きたいからね。

 魔獣達も泊まれる宿屋はあるだろうか。


「ぼふっ」

「えっ、乗っていいの?」

「ぼふぼふ」


 どうやら僕達の気持ちを汲んでくれるらしい。

 お言葉に甘えてアースに乗る。


「ありがとうアース」


 首を撫でるとぼふっと一鳴きして歩き出した。

 徐々に速度が上がっていくにつれ足音も大きくなる。

 あっという間に街道の傍まで近づき、僕達はアースから降りる。

 街道にはもう暗くなるというのにまだ人の通りが多い。さすがに出ていく人や馬車は見ないけれど。

 街道には馬などの動物がいる為アースを近づけるわけにはいかない。

 かといって宿を探すのに僕が魔獣達の傍から離れる訳にはいかない。暗くなるから余計にだ。

 なのでこういう時はカナデさんとフェアチャイルドさんに宿を探してもらう事になる。

 僕は魔獣達とお留守番だ。連絡用にディアナが一緒にいる。

 どうもフェアチャイルドさんは、僕が精霊と組む時はディアナと一緒にさせたがっているような気がする。

 待っている間僕は街道から少し離れた所で何気なしに道行く人々を眺めていた。

 皆ライトを使っている為街道は非常に明るい。離れた場所からでもよく見える。

 だからだろうか。人混みに紛れた緑髪が目についた。

 この国では緑髪というのは珍しくない。勇者アークも緑色の髪をしていたと言い伝えられている。

 だけど、見つけた緑の髪は僕の知っている子の物だと確信できた。

 僕は駆け出しそうになった。だけど、すぐに足を止める。僕は都市の外では管理されている場所以外では魔獣達から離れてはいけないんだ。

 でも、あの子が行ってしまう!


「ナス。アールスがいるの見える?」

「ぴー? ……ぴー!」


 ナスが光を操り僕が指さした先にいるアールスの姿を拡大させる。

 後姿で大きくなった姿だけれど間違いない。

 懐かしい。僕が誕生日に送った犬の髪留めをしている。


「呼んでくれる?」

「ぴー!」

「ディアナも、フェアチャイルドさんに伝えてくれる? アールスを見つけたって」

「わかった」


 ナスは自分の声を魔力(マナ)に乗せて運ぶ事が出来る。

 なんと言ったのかは僕には分からないけど、アールスがこちらを振り向いた。

 僕はライトを使い周囲を照らす。

 アールスはすぐに走り出した。速さはアイネといい勝負かもしれない。


「ナギ!」


 僕の名前を呼ぶ。懐かしい……と言うには少し声が変わっている。昔は高い声だったような気がするが、僕の名前を呼んだ声は少し低いような気がした。

 僕は両手を広げて迎えると、アールスは僕に飛び込んできた。


「ナギ!」

「久しぶり。アールス」


 アールスを受け止めると、ずっしりと重く柔らかい物が僕の皮鎧に覆われた胸に乗っかってきた。僕のよりも大きいなこれ。


「まだこの髪留め使ってくれてるんだね」

「宝物だもん」

「髪まだ伸ばしてるんだね」


 背中に回した手に二本の纏められた髪が当たる。


「うん! ナギも伸ばし始めたんだよね?」

「まぁね」


 アールスを放し少し離れて改めてアールスの姿を見る。

 懐かしい透き通った瞳は相変わらずだ。

 目線は同じくらいの高さ。あまり身長は変わらないかな。

 体つきはしなやかで女の子らしい体の線をしている。筋肉はあるようだけれど、硬い印象は見受けられない。

 服装はなんというか、生地の質が他の都市のお店で見てきた物と違う気がする。お高いんじゃないだろうか?


「レナスちゃんは?」

「今宿を探してもらってたんだ。このディアナと連絡取れるんだ。すぐに来ると思うよ」

「おおっ、精霊だね。初めまして。アールス=ワンダーです」


 ぺこりと頭を下げるアールス。ディアナも併せて自己紹介をし頭を下げた。


「ぴーぴー」


 ナスが両手でアールスのスカートの裾を引っ張っている。


「あっ、ナスも久しぶりだね! 教えてくれてありがと!」

「ぴー。アールス、会い、たかった」


 アールスには前もってナスが話せる事は手紙で教えていた。

 内緒にして驚かせるというのも考えたけれど、アールスにはなるべく秘密は作りたくなかった。


「私も会いたかったよ、ナス」


 ナスを撫でるアールスは穏やかな雰囲気を纏っている。

 成長したという事だろうか? 昔は元気がよくて無邪気な女の子だったけれど、今のアールスには余裕というか落ち着きというものが感じられる。

 きれいになった。掛け値なしにそう思える。

 アールスはアースとヒビキにも挨拶をする。


「あなたがアースで、あなたがヒビキね。いつもナギがお世話になっています」

「なんで保護者目線?」

「ぼっふっふ」

「ぴー。レナス、来た」


 街道の方に視線を向けてみると、ナスの言う通りフェアチャイルドさんが走ってきていた。


「レナスちゃん!」


 叫んでからアールスも走り出す。

 抱き合う二人。

 遠くて聞き取れないがフェアチャイルドさんが何か言っているようだ。

 僕との時よりもちょっと情熱的な再会だ。アールスがフェアチャイルドさんの頭を撫でている。

 カナデさんはいないけど、宿を取っているんだろうか?


「ぴー……」

「そうだね。会えてよかったね」


 二人は僕達を忘れたようでちょっと寂しい。ナスも同じようだ。

 ナスを撫でながら二人の抱擁が終わるのを待つ事にした。

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