第8話「私の愛し子が異世界に落ちてきた日~アレクセイ公爵視点~」
光の中から落ちてきた――一瞬で目の前に現れた女性、佐神ミレイ。
驚きと恐怖で震える彼女を抱きとめた瞬間、私は知った。――この子を守りたい、側に置きたい、全てを与えたいと。
冷徹と噂される私の胸を、柔らかくも確かな温もりで満たす彼女。
これは、理想以上の愛し子との、甘くもドキドキの異世界生活の始まりである。
光の中から落ちてきた彼女――ミレイ。
抱き止めた瞬間、胸の奥を撃ち抜かれたように息が詰まった。
驚きと恐怖に揺れる体。震える手足。怯えた瞳。
ただの転移者にすぎぬはずなのに――。
……無関心では、いられなかった。
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館に着くと、使用人たちが慌ただしく準備を始める。私は低く命じた。
「風呂を用意しろ。丁重にもてなせ」
一斉に頭を下げて散っていく使用人たち。その間、彼女は戸惑いがちに私を見上げてくる。
「そ、そんな……わざわざ……」
「汚れたままでは眠れんだろう」
冷ややかな声音のはずだ。だが胸の内は、なぜか温かくざわめいていた。
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浴室で侍女に支度を整えられ、柔らかな寝間着姿で戻ってきた彼女。
食卓の前に座らせると、思わず椅子を引いてやっていた。
「食べろ」
差し出したスープを戸惑いながら受け取る彼女。
掠れるような声で「……はむ」と口を開けた姿に、胸が強く打たれる。
――可愛い。
そんな言葉が喉元までこみ上げ、必死に飲み下す。
ただの庇護対象だ。特別な感情など抱いてはならない。
そう言い聞かせながらも、理性は揺らいでいく。
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一晩、彼女を寝台に休ませ、私はその傍らに腰を下ろした。
怯えぬよう、手を包み、額にかかる髪をそっと払う。
「怖がるな」
そう囁きながら、自分の方こそ心を乱されていた。
眠る彼女は、まるで天使のように儚く、美しい。
――側に置きたくてたまらない。
――いや、それは保護のためだ。そうでなければならない。
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翌朝。
彼女が目を覚まし、躊躇いながらも口を開いた。
「……あの、私、女神ルミエールさまに会いました。そこで、“あなたは愛し子だ”って……そう告げられて」
そう言うと、彼女は胸元に手を添え、少しだけ寝間着を開いた。
そこには淡い光を宿した印が浮かんでいる。
「これが、その証なんです」
――あまりにも唐突で、私は息を呑み、顔が熱くなるのを感じた。
必死に視線を逸らし、咳払いで誤魔化す。
「わ、わかった! すぐに胸元を閉じなさい!」
自分でも驚くほど、声が掠れていた。
だが胸に灯っていた直感が、真実であったことを確信する。
――やはり、君は……。
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その後、王城へ。謁見の間には壮麗な王、若き王妃、そして王子が控えていた。
私は王へ報告する。
「こちらは女神ルミエールさまに選ばれし“愛し子”です。胸元に、その証もございます。……確認は女性使用人に任せました」
ミレイは一歩進み出て、落ち着いた声で名乗った。
「佐神ミレイと申します」
王子が熱い視線を注ぐ。
だが彼女の瞳は、私だけを追っているように見えてしまう。
……愚かだ。思い上がるな。
それでも胸の奥で、不遜な喜びが膨らんでいく。
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王子は保護を申し出た。
だがミレイは迷わず、私の側にいることを望んだ。
理性が告げる。
――その方が彼女にとって安全だ。王族の庇護を受けた方が良い。
感情が叫ぶ。
――渡したくない。手放せるはずがない。
私は微かに笑みを浮かべ、静かにうなずいた。
「……そうか」
その瞬間、胸の葛藤は霧のように溶けていった。
やはり、私の愛し子は――私の側にいるべきだ。
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館に迎え入れ、一晩甘やかして守った愛し子。
謁見の場で王子より私を選んだ彼女の視線を見て、心が満たされた。
これからの異世界生活、私は彼女を守り続け、甘やかし続ける――。
次回も、愛し子との甘くドキドキの時間をお楽しみに。




