【番外編】「お父様の二面性――子どもたちが見た、公爵の凛とした姿」
今回は、アレクセイ様とミレイの子どもたち視点でお届けします。
家では母・ミレイを甘やかすお父様。しかし、子どもたちはその姿しか知らないがゆえに、仕事場での父の姿に不安を覚えてしまう……。
果たして、子どもたちは父・アレクセイ様の本当の一面を目にすることができるのか――。
公爵邸の広間は、今日も笑い声に満ちていた。
アリス(8歳)とルイ(6歳)は、母・ミレイと父・アレクセイ様に囲まれ、穏やかな午後を過ごしている。
「お母様、今日も一緒にお茶しよう!」
「お父様も見て見て、僕が描いた絵だよ!」
アレクセイ様は子どもたちの頭を優しく撫で、頬に軽くキスをし、母ミレイを微笑みで見守る。家の中はいつも温かく、甘々だった。
子どもたちにとって、父は優しすぎるくらい優しい存在であり、家族の中心で安心できる存在だった。
しかし、姉のアリスはふと考え込む。
「家ではこんなに優しいお父様……でも、仕事場でではどうなのかしら……」
ルイも少し不安げに頷く。
「部下たちになめられたりしてないかな……」
その様子に気づいた、夫婦で遊びに来ていたフェルナンド王子とコレットが微笑む。
「どうしたんだい、アリス?」
小さく息をつき、アリスは勇気を出して打ち明ける。
「お父様、家ではとても優しいのですが……お仕事でも同じくらい優しいのでしょうか。ちょっと心配で……」
コレットはそっと頷き、優しい笑みを浮かべる。
「それなら、少し見てみるのはどうかしら? きっと素敵な一面を見られると思うわ」
フェルナンドも微笑む。
「そうだね。少し準備は必要だけれど、家での優しいお父様だけでなく、公爵としての姿を知るいい機会になるよ」
数日後、ミレイの了承を得て、フェルナンド夫妻は子どもたちをこっそり王城の秘密の部屋に案内した。
その部屋には、執務室をのぞくための小さな覗き穴があり、普段は誰も使用できない。
「ここからなら、お父様に見つからずに様子を伺えるよ」とフェルナンド。
アリスとルイは、息をひそめて覗き穴に目を向ける。
心臓がドキドキして、二人とも思わず手を握り合った。
執務室に入るアレクセイ様は、家で見る甘い父とはまったく異なる姿だった。
背筋を伸ばし、冷静な視線で部下を見据え、低く落ち着いた声で指示を飛ばしている。
「この件は何度目だ、慎重に行うように!」
「はい、承知しました、アレクセイ様!」
部下たちは緊張しつつも、真剣な表情で応える。
アリスは息をのみ、そっとルイに耳打ちする。
「お父様……家と全然違う……」
ルイも目を丸くして頷く。
「家では甘すぎて仕事できるのかと思ったけど……すごい……」
部下の一人が手順を間違えると、アレクセイ様はすぐに声をかける。
「これは違う、順序を見直して再度やってみろ。君ならできる」
アリスは心の中で息をつく。
「叱るけど、ただ怒るだけじゃなくて、きちんと助けてくれる……すごい」
さらに、別の部下が資料を読み間違えそうになると、アレクセイ様は静かに指示を出す。
「君の考え方は間違っていない。ただ、この順番で進めるとより効率的になる」
子どもたちは、父の凛々しさと優しさが同居するその姿に驚き、目を輝かせる。
アリスは小声でつぶやく。
「家でのお父様も素敵だけど……仕事場でのお父様はもっと格好いい……」
ルイも静かに頷く。
「怖いけど、ちゃんと皆を導いてる……すごい……」
執務室の空気は張り詰めているが、アレクセイ様の目配りは一人ひとりに行き届いている。
部下のミスも見逃さず、しかし責めるだけでなく次の行動を導き、支えながらチームをまとめている。
覗き穴からの視線を通して、二人は父の新たな一面を理解した。
家での甘い父も、仕事場での凛々しい父も、どちらも大切で愛しい――。
執務室での時間が終わり、子どもたちはそっと秘密の部屋を後にした。
「今日、見られてよかった……お父様って、本当にすごい……」アリスが小さくつぶやくと、ルイも静かに頷く。
「怖かったけど……尊敬する……」
この日から、アリスとルイは父の二面性を深く理解し、より一層尊敬の念を抱きながら日々を過ごすこととなった。
家で甘やかしてくれる父の優しさも、外で凛として皆を導く父の姿も、どちらも心の中で愛おしいものとして刻まれていった。
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家での優しさと職場での凛々しさ――二つの顔を持つアレクセイ様。
子どもたちは、その両方の父を見て、安心と尊敬を胸に刻みました。
家族の中で見せる愛情も、外での責任感も、全てが父の魅力。
皆さまも、アレクセイ様の二面性に胸を打たれることでしょう。




