第3話「冷徹と噂の公爵様は、私には優しすぎる」
今回の更新では、いよいよミレイがアルデリア公爵家に足を踏み入れるシーンを描きました。
彼を「冷徹」と囁く使用人たちの声と、ミレイが実際に感じた優しさのギャップ――ここから二人の関係がどう動き出すのか、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
アレクセイの腕の中で目を瞬かせていると、彼はゆっくりと私を下ろし、まっすぐに見つめてきた。
「歩けるか?」
低く響く声。落ち着いていて、けれどどこか冷たくも感じられる。
「は、はい……」
頷いたけれど、足がまだ震えているのが自分でもわかる。
その様子に、彼は小さくため息をついて、私の肘にそっと手を添えた。
「なら、ついて来い。館まで案内する」
――館?
呆然としながら彼の背中を追う。広大な庭園を抜けると、荘厳な館が姿を現した。高くそびえる塔、重厚な扉、整然と並ぶ石畳――まるで絵本の中の城のようだ。
けれど、門を通り抜けた途端、待ち受けていた使用人たちが一斉に頭を下げ、ひそひそと声を交わしているのが耳に入った。
「あの公爵さまが……女性をお連れするだと……?」
「そんなはずはない。冷徹で知られるお方が、女を連れてくるなんてあり得ん」
私は思わず足を止める。冷徹?恐ろしい?――この人が?
さっき抱きとめてくれたときの力強さと、あの優しさに胸を熱くしたばかりなのに。世間の評判はまるで違っていた。
その時、振り返ったアレクセイと目が合う。
「何をしている。早く来い」
少し不機嫌そうな声。それでも彼の手は、私を置いていくことなく、もう一度差し伸べられていた。
私はその大きな掌を見つめ、心臓がまた跳ねる。
――この人は、本当に怖い人なの? それとも……。
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「冷徹な公爵」という世間の噂と、ミレイが見たアレクセイの優しさ――そのギャップが少しずつ二人の物語を動かしていきます。
ミレイがどんなふうにこの異世界で居場所を見つけていくのか、そしてアレクセイがどう変わっていくのか。
次回もぜひ楽しみにしていてください!




