第14話「初めての庭園――心奪われる日」〜フェルナンド王子視点〜
王子フェルナンドの視点で描かれる第14話。
謁見の間で出会った瞬間から心を奪われたミレイに、王子の想いが止まらない――。
今回は王子の独白も多く、少し都合よく解釈されている部分がありますが、彼なりの純粋な心情としてお楽しみください。
謁見の間に足を踏み入れた瞬間、視線は自然と、そして否応なく彼女に向かっていた。
黒髪は艶やかに光り、切れ長の黒い瞳は静かに私を見据えている。
その落ち着いた佇まいは、まるで年上の女性のような余裕を帯び、少女と大人の間に立つ絶妙なバランスを保っていた。
「――初めて会ったその瞬間から、心を奪われるとは」
思わず吐息を漏らしてしまう自分に気づき、微かに顔を赤らめた。
だが、彼女は私の視線など気にする様子もなく、淡々と私の前に立っている。
保護を申し出るも、彼女は首を横に振った。
無関心そうに見せるその態度が、逆に私には魅力的で、抗いようのない力を持っていた。
それからの日々、彼女への想いは募るばかりだった。
ついに我慢ができず、公爵邸に足を運ぶ。叔父上から許可を得て、彼女を王城の庭園に誘った。
春の陽射しが柔らかく差し込む中、彼女と並んで歩く――それだけで、胸が高鳴る。
しかし、数歩歩いたところで彼女は顔をしかめ、すぐに立ち止まった。
「……ごめんなさい、少し気分が悪くて……」
言葉少なに庭園を後にする彼女を見送りながら、胸の奥がざわめく。
――行ってしまわれた……。
冷たくも毅然としたその背中が、余計に恋しさを募らせる。
「やはり……他の令嬢たちとは違う」
周囲に群がる令嬢たちが羨望と嫉妬の眼差しを向けてくる。
だが私の視線は一瞬たりとも動かない。追い求めるのはただ一人。
叔父――アレクセイ公爵のもとにいることが、どうにも許せなかった。
あの人は尊敬すべき人物だ。だが、女性の心を満たすには、あまりに不器用すぎる。
(あの方の隣にいても、窮屈で、幸せにはなれないはずだ)
そう思い込むことでしか、募る焦りを抑えられなかった。
「必ず、振り向かせてみせる……」
若さゆえの自信と焦燥が胸の奥に渦巻く。
私は固く唇を結び、去っていった女性の名を心の中で繰り返した。
――ミレイ。
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王子フェルナンドの独白でお届けしました。
少し都合よく解釈されている部分もありますが、彼なりの純粋でまっすぐな想いです。
次回はミレイの気持ちにも焦点を当てていきますので、お楽しみに。




