罠と武将
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。
その途端、強力な光がモノリスから発せられて、彼らは反射的に目を覆って顔をそらせた。
なので何もみえなかっただろう。モノリスの周囲に仕掛けられていた守るんですが作動し、彼らを取り込んでさやの中に送り込む。
僕たちは偏光グラスをかけていたのでそれらが見えた。
「こうやって侵入者を排除するのかあ」
作った本人である僕も、見るのは初めてだ。
「悲鳴とかもあんまり漏れねえな」
幹彦はしげしげと、さやから吐き出された、拘束された上麻痺までさせられた彼らを見て言った。
「安眠も守るんだな」
「ダジャレか」
思わず笑い出す。
「な、なん、で……」
意識と反抗心のある1人がこちらを見ながら訊く。
「盗聴器を見つけたので罠を張ったんですよ。罠猟は初めてです」
言うと、先の小部屋に隠れていた公務員が素早く小走りで来た。
彼らは内閣調査室所属の人だとかで、出身は警察とかなのだろう。よくは知らない。
そうして彼らに自殺防止の猿ぐつわをはめてから立たせた。
「ご協力ありがとうございました」
リーダーがそう言い、僕たちはにこやかに軽く頭を下げる。
「いえ。よろしくお願いします」
そうして、守るんですを解除し、モノリスの偽物と一緒にバッグにしまった。
「あっさり終わったなあ」
幹彦は詰まらなさそうだ。
「ははは。ケガもなくて何よりだったじゃないか」
言ったとき、その不穏な気配に気付いた。幹彦も表情を引き締めて刀を構え、チビも同じ方を向いてうなり声を上げていた。
「何が」
内調のメンバーが緊張する中、それは姿を現した。
甲冑を着た武者のゾンビだが、配下の武士、足軽などをぞろぞろと引き連れている。
まず先頭の足軽が飛び込んできたので、それを幹彦が軽々と斬った。そうしてビクビクと痙攣するかのようにうごめく体に近付くと、ひょいと魔石を弾き取るようにえぐり出す。今は拾っている暇はない。
しかし、その1体が消えたと思ったら、後ろの方に別の1体の足軽が生まれた。
「減った分だけ増やせるのか、こいつ」
幹彦が驚いたように言うと、内調のメンバーが言う。
「これだけの数、こいつらを守りながら片付けないといけないのか」
捕まえたやつらには、これから色々と語ってもらわなければいけないということか。
「これは僕たちだけでやりますよ。下がっていてください。
幹彦、一気に消すから」
幹彦に言うと、幹彦とチビは突っ込む構えで動きを止めた。
「よっ」
強力LED攻撃ならぬ光魔術だ。聖水の浄化の術式を組み込んでいる。
しかしここで、思わぬ事が起こった。手下が主人らしき武将をかばって覆うように立ち、どんどん数を減らしていきながらも甲冑の武者は無事だ。
そいつは光の消えた中ですっくと立っていたが、胸元に挿した軍配を上げようとする。
そう言えば、先ほど後ろでゾンビが復活する前にも、この武者は同じ動きをしていた。あの軍配が手下をどこからか呼び出すためのものに違いない。
「そいつが先だ!」
「おう!」
幹彦は素早く踏み込んで接近していく。そして槍と打ち合い、払いあった。
チビは手下の中に踊り込み、魔石を片っ端から外して回っている。
僕も、残った手下を斬るために、薙刀を握り直して突っ込んだ。
手下は僕とチビで片付け、武者は幹彦が懐に入り込んで首を斬り、胴を両断する勢いで斬り、魔石を弾きだした。
「よし、片付いたな!」
「ワン!」
「はあ、なかなか強い相手だったぜ」
僕たちは各々安堵しながら、魔石拾いに取りかかった。
その後、やはりやつらは深夜に忍び込んだときに盗聴器を仕掛け、僕たちの懐柔または排除を目論んでいたらしい。それは実物が証拠として見つかっているので、認めざるを得ないと思ったようだ。
やれやれだ。
「疲れたぜ」
「はあ。まったくだ。私も大きい姿の方が効率がいいんだがな」
「疲れたときは甘い物が一番」
僕はプリンの実を運んで行き、幹彦は喜んでコーヒーを淹れに立ち、チビは尻尾を盛大にぶんぶんと振った。
「まあこれで、盗聴器は排除できたし」
言いながら、プリンの実を切って皿に入れ、スプーンを付ける。
「はあ。スパイ大作戦はテレビの中だけでいいや」
そう言うと、幹彦は苦笑し、チビは嘆息し、プリンの実をすくった。
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