臨時立ち入り調査中
アンデッドダンジョンは、臨時の調査のために一部立ち入り禁止になっている。重大なダンジョンの秘密に関わる事が記されたらしいモノリスが見つかった、ということになっているが、それは嘘だ。昨日リビングでその話を電話で受け、解析を依頼されてアンデッドダンジョンへ行く、と言ったのだ。これに、盗聴しているやつらは食いついて来るはずだ。
立ち入り禁止で人はほぼいない上、そんなモノリスの発見だ。解析できれば、世界の覇権を握れる。と考えても不思議ではない。
だが、もちろんそんな話はでたらめで、ダンジョンの秘密なんて全くわからない。ダンジョンは発見されたときから今に至るまで、謎の塊である。
しかも立ち入り禁止となれば損失ではあるが、アンデッドダンジョンならばそうたいした損失にもならないだろうとの判断で、そこはなんとなく、世知辛い物を感じる。
立ち入り禁止と聞いて、一応残念そうにして帰って行く者ももちろんいるが、大抵は、
「じゃあしかたないなあ」
「買い物でもして飯食って帰るか」
などと、あっさりとしたものだ。
これが資源ダンジョンやいつものダンジョンなら、不満をこぼして、いつまでかかるのかとか訊いて帰るだろうし、待っていたら終わるのではないかと粘る者もいるだろう。
幸か不幸か、それがアンデッドダンジョンの人気の程度だ。
職員は入り口に立っているわけでもなく、ただ、「調査のため立ち入り禁止」という張り紙があるだけだ。
こっそりと入ろうと思えば入れる。
僕と幹彦とチビはダンジョンに入り、墓地が舞台となっている階にいた。
「これか」
立ち並ぶ墓石の中に、やや目立つように黒くて四角い物が立っており、表面に象形文字のような何かが彫られていた。
「まあ、墓が並んだところにあったら、これまで見落としていたっていうのにも不自然さはねえだろうけど」
幹彦は、そのなんちゃってモノリスを見た。
「これ、何て書いてあるんだ?」
チビが首を傾げた。
「たぶん、意味なんて全然ないんじゃないかなあ」
そう言って笑い、僕もそれを見た。
黒くてツルツルした材質で、表面は鏡のような鏡面加工になっている。その表に象形文字が彫られ、横には真っ直ぐな線が引かれていた。
この石をここに置いたのは協会で、倒産した映画の倉庫にあった小道具らしい。なのでやたらと精巧に作られていた。
まあ、映画そのものは売れなかったそうだが。
それを眺めながら、それらしくメモに何かを書いていく。
牛乳、食パン、にんじん、しょうゆ、液体洗剤。
「史緒、それ」
「買い物リストだよ」
こそっと言い合い、幹彦は低い声のまま言った。
「来たぜ」
チビもストレッチなのか伸びをした。
背後で僕にもわかるくらい気配がし、僕たちは今気付いたかのように振り返った。
そこにいるのは、アジア人探索者に見えた。日本人にも見えるが、どことなく違うようにも見える。
「今は立ち入り禁止ですよ」
一応、別人の可能性もあるのでそう言うと、その6人グループは間隔を開けて僕たちを囲むように半円状になっていく。
「騒がないでください。そうすれば手荒なことはしません」
1人が言い、幹彦が連中の1人を見ながら言った。
「車に引き込まれそうになったって言ってたの、あいつだぜ。
自力で解決できそうに見えるけどな」
「ワン」
そいつらは僕たちから目を離さないままじりじりと近付いて来た。各々手には剣やら斧やら棍棒やらを持っているが、中の1人は鞄を持っていた。形がいつかダンジョンでドロップした収納バッグと同じなようなので、おそらく収納バッグで、モノリスを奪って行くつもりなのだろう。
嘘ではあるが、ここでモノリスが発見されたというのを聞いたのは、電話をしてきた支部長と僕たちのほかは、盗聴していた人だけだ。これで間違いない。
「おとなしく、こっちに来て並んでください。ゆっくりと」
僕は見た目ではメモと筆記用具しかもっていないし、チビは子犬のフリだ。幹彦が刀を持っているが、脅威は幹彦1人と思っているらしい。
それでいい。僕たちは一応悔しそうにしながら、そろそろとモノリスから離れて行った。
「これがそうか」
収納バッグを持つ1人が言い、モノリスに近付いて手を伸ばした。
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