捜索と計画
盗聴器というものの実物を見たことはない。テレビの情報を頼りにするしかなく、イスやテーブルの下、家具の裏や掛け時計の裏などを探す。
業者を呼べばすぐなのだろうが、そうするとそれも相手に筒抜けになってしまう。なので、自分たちの目が頼りだ。
そう言えばコンセントの中とかに入れる物もあるらしいと思いだし、工具を持ち出してきて、コンセントやタップを片っ端から開いて安全を確認する。
しかし、思う。そんなに時間をかけてはいられなかったはずだ。工具が必要なほどの手順は踏めなかったのではないか。
だとすると、意外とどこかに隠して置いてあるとか、単純なものではないだろうか。
そこで僕は、今度は隙間や普段使っていないのがまるわかりのものをチェックすることにした。
万が一に備えて置いてはいるが、中身の消費期限が大丈夫かすらも確認できていない非常持出し袋。
来客用の食器を入れている箱。
天井の通風口。
あった。と、声に出しそうになった。
それは何の変哲も無いタップコンセントに見えた。
だが、それがここに刺さっているということがおかしいのだ。
以前、リビングでたこ足配線にしていくつもの電化製品を使ったことがある。それはここにあるほうが便利だからと家族が各々、テレビやビデオは言うに及ばず、空気清浄機、加湿器、こたつ。そこに、アイロン、ノートパソコン、コーヒーメーカー、電気コンロをつないだら、ブレイカーが落ちた。
電圧を上げる工事を頼もうかと業者を呼んだらたこ足配線のしすぎだと注意され、それ以来、厳しく数を制限するようにしたのだ。
その時に、コンセントタップの数と形と場所は覚えている。目の前のそれは、うちのものじゃない。
その二つ口に変えるコンセントタップを幹彦に示し、頷くと、幹彦もOKサインを出して頷いた。
そして、僕と幹彦は地下室へ移動した。
ダンジョン庁に電話をかけて、連絡係の職員を呼ぶ。
「あ、お世話になっております。周川ですが」
ビジネスマンの見本のような挨拶から入った。
電話をかける幹彦を何となく眺めながら、プランターの青ネギを今日の味噌汁に使う分だけちぎった。
工作員なんて、フィクションでしか聞いた事は無い。日本にはたくさん入ってきて活動しているとは聞くが、見たことがない。
まあ、見たことはあっても、気付かないだけの可能性もある。
そんなやつらにいつまでも会話を聞かれたりするのは御免被るし、留守を知られて侵入でもされると困る。
「はい、ではそのようにお願いいたします」
考えているうちに幹彦は電話を終えた。
「何て?」
「5分後に、モノリス発見と解析の依頼の電話をかけてきてくれるそうだ」
「じゃあ、戻らないとな」
言って戻りかけたとき、精霊樹の下にチビが現れた。
「あ、チビ。お帰り」
チビはくわえていた青いうさぎを下に置いて上機嫌に言った。
「うむ。ちょっと散歩に行ってきた。こいつは土産だ」
「青いウサギ?あれ。羽か?」
背中に羽がある。
「渡りうさぎだ。美味いぞ」
僕も幹彦も羽が生えたウサギを物珍しく眺めた。このウサギは羽がはえているが、大きさは日本の幼稚園などで見るのと変わらない大きさだ。そして青いが。
「今晩食べようぜ。明日は忙しくなるし、チビにも頑張ってもらうことになりそうだしな」
「まずは電話を受けてからだよ」
僕たちは、何も知らないチビと一緒に家の中に戻り、リビングに腰を落ち着けて待った。
すぐに電話が鳴り出す。
「はい、麻生です」
計画がスタートした。
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