回覧板と疑惑
回ってきた回覧板に目を通す。
まずは近所に怪しい人物がウロウロしているので、出かけるときはもちろん、家に居るときでも注意して鍵をかけるように。相手を確認するまでドアは開けないように。もし忍び込もうとしている所でも見かけたら、すぐに警察へ連絡すること。
もうひとつは、深夜に出されたゴミが荒らされている、もしくは、開封されているらしい。なのでゴミは、必ず収集当日の朝になってからゴミ置き場に置いてネットをかけるように。
それと、町内の一斉溝掃除は第二日曜の朝9時からなので、当日の時間までに溝の上に置いてある自転車や植木は撤去しておくこと。
大まかにこの3つだった。
「溝掃除か。なんだかんだで、出られない事も多かったな。今月はちゃんとやろう」
そう僕は決めて、カレンダーに「溝掃除、9時」と書き込んだ。
そして、判子を押す前に、もう一度「不審者情報」「ゴミあさり」の件を読んだ。
僕には、ひとつひっかっかっている事がある。思い出したくはないが、幹彦にかけられた、チビが言うところのハニートラップだ。
普通ハニートラップを仕掛けるのに、同性を差し向けることはないだろう。なにがしかの情報があったには違いない。
僕も幹彦も、同性にドキドキする質ではない。そんなことを言ったことも、そぶりを見せたこともない。僕は婚約までしてたし、幹彦だって過去に彼女もいたし、ハッキリした性格のできれば巨乳がいいと友人に言っている。
ただ例外は、幹彦がおばさんからしつこく「結婚しろ」攻撃を受け、言うだけでなく勝手に見合いめいた出会いを画策されたことで腹を立て、売り言葉に買い言葉で、
「だったら史緒と結婚してやる」
と言ったことだ。
あれは幹彦の実家の玄関先で言ったので、あのとき道場にいた探索者は聞いていた可能性はある。
ただ、あれを聞いていたのであれば、あれがただ売り言葉に買い言葉で言い返しただけの言葉だとわかるはずだ。
それと、翌朝おばさんがわざわざ結婚式場のパンフレットを持って嫌がらせに来たが、その会話はうちのリビングでされていたので、僕たちと幹彦の家族以外に聞いた人はいない。
それにそんな冗談を、これまで僕も幹彦もどこかで言ったことも考えたこともないないので、あの話が出たのは、幹彦の実家の玄関先かこのリビングのみだ。
つまり、漏れたとすれば、このリビングからということにならないだろうか。
「どういうことだ?」
ううむとかんがえていると、幹彦が掃除機を片付けてリビングに入ってきた。
「どうした、史緒。何か欲しい商品とかあったのか。
あ。まな板はやめろよ。同じ物が万能スライサー付きで通販で売ってたぜ」
親切に教えてくれたが、そうではない。
でもまな板は考えよう。
「そうじゃなくてね」
僕は小声で考えていたことを話した。
「なるほどなあ。あの時は、ひっかかった事も無かったけど、何かスルーしたんだよな」
「ああ。でも、おかしいだろ?日本の役所でも同性のパートナーは認められているところがあるとは言え、やっぱり少数派なのに。それにそれなりの組織じゃないかって思うんだよ。手慣れてもいたしな」
そこで幹彦は眉を寄せた。
「婚活パーティーで例のプロポーズの話を親しいやつには冗談とグチでしたけど、親に反発しただけだけのものだって言ったよな。あれが本当は本心だったと思われたとかじゃねえのか」
それはそれで嫌だな。
「でもそれにしては、仕掛けてくるまでかなり時間が経ってるし。
それよりも、あの前の深夜に、侵入してきた奴らがいただろう」
ガラスも割ったやつらだ。海外の工作員だと聞かされた。
そこで、内緒話ほどに声をひそめた。
「あの時に盗聴器でも仕掛けられたんじゃないかと思うんだけどな。場所はこのリビングかな」
幹彦はビクリとして、鋭い目でその辺を見た。
僕たちは顔を見合わせ、頷いた。
「ちょっと大掃除しようか。なかなかできてないから」
「ああ、そうだな。今日は暇だしな。いいぜ」
僕と幹彦は、盗聴器の捜索を開始した。
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