深夜の訪問者
ダンジョンへ行ったり、エルゼへ行ったり、家で制作をしたり、家庭菜園の手入れや収穫をする。そんな毎日が続いていた。
「ああ、これぞ正しい隠居生活だなあ」
テレビを消しながら言う。
テレビは毎晩放送している『ダンジョン生活』という短い番組で、新製品の事や新しく出たドロップ品の事、ダンジョンや探索者に関する法律やお知らせ、チームメイト募集などを放送している。
関係のある事を放送する事があるので、探索者は大抵見ているのだ。
「そろそろ寝るか」
幹彦は欠伸をしながら言い、僕達は居間の電気を消して自室へ引き上げ、チビはリビングの隅に積んだバスタオルの上で丸くなった。
どのくらい経った頃だろうか。深夜なのは間違いなく、部屋の中も常夜灯以外に灯りは無く暗い。
なぜ目が覚めたのかとふと考えた時、階下から微かな音が聞こえた。
何だろうと思って起き上がり、静かに部屋を出たところで、幹彦にあった。
幹彦は真剣な顔で人差し指を唇の前で1本立て、
「見て来る。危ないからここにいろ」
と小声で囁くようにして言い、足音を立てないで階段を下りて行った。
思わず素直に頷いてそれを見送ったが、それもどうなんだと考え直し、部屋へ戻ってスマホを握りしめて降りて行った。
と、
「ヒ──!?」
「ウオン!!」
「誰だてめえら!」
押し殺したような声とチビの声、幹彦の声がほぼ同時に聞こえた。
出遅れた!
僕は声がしたキッチンの方へと飛び込んだ。
そこには、大きなチビに抑え込まれた黒づくめの男達2人と、ナイフを逆手に握る黒づくめの男1人、床の上で伸びている黒づくめの男1人いた。
ナイフ男は鋭くリズミカルにナイフを払い、幹彦はそれをかわしながら、隙を窺っている。
出番だ!そう思って僕はスマホをタップした。
「ウワッ!?」
フラッシュが光り、ナイフ男は正面からそれを浴びて、反射的に目を覆うようなしぐさをした。それを見逃す幹彦ではなく、ナイフを叩き落し、側頭部を蹴りとばして意識を刈り取る。
しかし今度は、伸びていた男が意識を取り戻し、ナイフにそろそろと手を伸ばしている。
そこで今度はその男の耳元にスマホを突きつけ、大音量のサイレンを流してやった。
「グワアッ!?」
耳を押さえて飛びのこうとするが、そのみぞおちに踵を落として呻くだけしかできないようにさせる。
「史緒!警察!」
「わかった!」
「チビ、そっちは任せたぜ!」
「ウオン!」
チビは一声上げ、犬歯を男達に見せつけるようにした。
「ヒイイッ!」
そうしているうちに、通報を受けた警察がパトカーで到着し、取り敢えず夜中の訪問者は警察官に引き渡すことができた。
調べていた警察官によると、男達は契約している警備会社の警備システムの回路を切断し、リビングの窓を焼き破りというやり方で開け、侵入してきたらしい。玄関ドアは電子錠付きの二重錠だったのでピッキングは辞めた形跡があったという事だった。
「焼き破り……窓ガラスが割れてるんですか?」
思わず男達の方を睨んだ。
「明日ガラス屋さんに来てもらわないと。それに床の掃除をしないと。
ああ、古新聞の束が──同性婚も?ああ、おばさんが持ってきた式場のパンフレットかぁ。
ああもう、用事を無駄に増やして……!」
呑気なその反応に、幹彦とチビは笑った。
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