2つの家
僕達はキキの家で、芋とハタルと前日に狩って持っていた魔物ではない動物の肉の昼食を一緒に摂った。
ハタルはキキもキキの両親も大喜びで、美味しい美味しいと喜んで食べていた。キノコや海藻は塩分や脂の排出も行うので、もしかしたらいい食べ物じゃないかと思ったので、石突付きのものをタイロンに植え付け、網で覆ったものを皆で増やして食べてくれと言って置いて来た。栽培できるといいな。もし効果がなくても、美味しければそれでいいしな。
お礼にと、薬草園の見学をさせてもらい、見た事の無い薬草も知ることができた。
そうして僕達は村を出た。
転移で帰って来たエルゼの家で、残った石突付きのハタルをタイロンに植え付けて網で覆って栽培の準備をする。地下室で万が一走り出したら困るが、こちらなら脱走されても、「ラッキー」と思われるだけだろうからな。
「こいつらも豆太郎も、無口でよかったな」
幹彦がしみじみと言い、吹き出した。
「確かに。叫びながら走ったりしたらうるさいだろうなあ」
口々に、「たすけてー」「どいてー」「人殺しー」などと言いながら走り回る所を想像すると笑ってしまい、村を出て以降どうしても晴れなかった気持ちが、少し軽くなった。
まあ、落ち込んでもしかたがない。僕は医師は医師でも解剖医だし、全ての人を救いたいだなんてうぬぼれてもいない。
幹彦は笑い、よっと立ち上がった。
「今日はこっちで晩飯食っていくか?キノコがまだあるし」
「そうだなあ。そうするか。
あ、おすそ分けに呼ぶ?」
「そうだな。参加費代わりに何か1品持ち寄りってのでどうだ」
「それはいいね」
話は決まり、適当に知人に声をかける事にした。オルゼ、ロイド、セブン、ジラール、明けの星。モルスさんはおすそ分けと言って渡しておこう。そう決めると、声をかけて回る。皆参加すると言うので、我が家に仕事が終わり次第集合と言っておいて、僕達も戻って準備だ。
イノシシは味噌煮込みにして、シカはソテー、トリは唐揚げに。キノコと野菜とエビと貝を網焼きできるように切っておいて、カセットコンロ風の魔道具に焼き網をセットする。
似たようなものはあったが、火の調整ができず、やはり日本のカセットコンロは優秀だとしみじみ思ったので、自作したものだ。
やがて皆が飲み物や総菜などを手にやって来て、乾杯をした後、キノコを見て一瞬黙ってから騒ぎ出した。
「これ、ハタルじゃねえか!?」
ジラールが素っ頓狂な声をあげた。
「え?うん。だから言っただろ、キノコ狩りに行って来たって」
「キノコには違いねえけど!ああ、いいや」
セブン、オルゼ、ロイドは苦笑している。エイン達は、
「見たの、初めてだ!」
「こ、これがハタルか」
「一口ごとに金貨が飛んで行くという」
などと恐ろしく真剣な表情で言い、
「大変だっただろ?」
と訊いた。
「まあ、すばしっこく逃げるし、頭突きしてくるし、大変といえば大変だけど、面白かったよな!」
幹彦が言って、僕もチビも同意したが、同じようにニコニコしながら、
「いや、そこまで行くのが大変なんだけどね、普通は」
とロイドが言って、気が付いた。
うっかりしてたが、普通は転移なんてないので、えっちらおっちらと精霊樹の近くまで行かないといけないんだった。
当然、距離だけでなく、出て来る魔物も問題なわけだ。
「気にするな。さあ、食おうぜ」
幹彦が言って、僕はハタルを裂いて網に乗せ、チビは涎を垂らしそうな顔で肉を見る。
「乾杯!」
秋の実りの食宴が始まった。
散々食べて飲み、オルゼにモルスさんへのお土産にとハタルを預け、僕と幹彦は片付けをしていた。
「ここもすっかり、自宅になったなあ」
「ああ。居心地がいいぜ」
「そのうち、地球とここが切り離されるだろ。生きている間にその時が来たら、どっちに住む?」
幹彦は考え、悩み、
「まあ、日本かな。親や兄貴も理由だけど、やっぱり便利なのは向こうだもんな」
と言った。
「だよな」
僕もそう言って苦笑し、
「さて、帰るか」
と、丸まって寝ているチビを起こして、地下室へ帰った。
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