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若隠居のススメ~ペットと家庭菜園で気ままなのんびり生活。の、はず  作者: JUN


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倒れていた少年

 思いもよらない、アグレッシブなきのこ狩りだった。

 きのこはちょろちょろと走って逃げるばかりでなく、時々蹴ったり頭突きしてきた。そんなきのこなんて見た事も無い。それでもむりやり動くところを想像するとすれば、どちらかと言えば、おとなしい感じの動きを想像していた。

 下の石突を切ればただのきのこになるのだが、むんずと掴むと、身をくねらせ、頭突きをして逃げようと暴れる。仲間のきのこが後ろから攻撃して来ることもあり、油断ができなかった。

 それでも、3人でかなりの量のきのこを集める事ができ、石突が付いたままのものもいくつか捕まえている。

 なぜか?もちろん、地下室で栽培する気だからだ。

 このきのこが生えるのはタイロンという木だそうで、その枝も確保している。あとは、檻で囲っていれば逃げ出す事も無いのではないだろうか。

 ふふふと笑いながらきのこを触ると、適度な弾力と柔らかさがあり、香りもいい。これは本当に楽しみだ。

「まずは焼いて、塩を振って柚子かなんかを絞って食べようか」

「すき焼きもいいぜ」

「私の知らない食べ方だな。楽しみだ」

 チビもグフフと笑う。

「天ぷらもおいしいぞ、きっと」

「史緒、パン粉をつけたフライも食いたい」

「そうだよな。あ、澄まし汁も忘れちゃいけないし、炊き込みご飯もしよう」

 僕達は食べ方を考えて想像しながら、気もそぞろに歩いていた。

 それに気付いたのは、幹彦だった。

「何かいるぞ、この先に。動かないな。弱ってる魔物か?」

 今一つ自信が無さそうな口調で首を捻る。

「寝てるだけとかじゃないのか?ライオンとかみたいな、夜行性のタイプ」

 恐る恐る言いながら、見えないかと目を凝らすが、まるで見えない。

 幹彦は気配察知を働かせながら警戒はしていたが、どうもそう心配はしていない様子だ。

「ヒトだな」

 チビが言うのに、幹彦が疑いの目を向ける。

「ヒトぉ?ヒトにしては魔力が多すぎるんじゃねえかな」

「うむ。それこそが問題な場合もあってな」

 チビはそう言い、見る方が早いと足を急がせた。

 近付いて来ると、確かにそれは倒れている人だとわかった。

「わ!行き倒れか?病気、いや、襲われたのかな?」

 言いながら、急いで寄って行く。

 まだ子供と言っていい少年で、肌の色は黄色味を帯び、張りがない。意識は朦朧としており、全体に痩せている。

「ケガはないみたいだな。顔色からすると肝臓が悪いのかな。ポーションは、かけてもだめか、飲ませないと」

 僕の専門は遺体だが、ある程度は生きている人間でもわかる。軽く診断して、白目も黄色くなっているのと、結膜が白くなって貧血の状態にある事を確認していると、チビが言う。

「その子は魔力過剰症とかヒトが呼ぶ状態だな。幹彦が魔物と思ったのもそのせいだ。ヒトには多すぎる魔素を取り込んでいる状態だ」

 元々魔素も魔力もない世界の僕達には、聞いた事の無い病気だ。

「どうすればいいんだ?」

「魔力を抜く?どうやって?」

 僕と幹彦が頭を悩ませていると、少年が目を覚ました。

「あ……誰……?」

 僕と幹彦は少年を覗き込んだ。

「大丈夫か?気分は?」

 少年は瞬きして起き上がり、うっすらと笑った。

「大丈夫です。最近、時々倒れちゃって」

 そう言って、転がった籠を手元に寄せる。

 掘り出した芋のようなものが入っていた。

「送るよ。この近くに住んでいるの?」

 少年はよろよろと立ち上がると、答えた。

「この先の──あ」

 そして少年はチビに気付いた。声をかける前にチビは小さくなっていたのだ。

「うわ、かわい……いや、まさか?」

 少年は途中で歓声を訝し気なものに変える。

「よくわかったな」

 チビは大きくなって、少年は驚いて尻もちをついた。

「フェンリル!」

 そして、畏怖の表情を浮かべて膝をつこうとした。これがフェンリルに対する、本来の対応なのだろうか。

「具合が悪いのに、いいから、いいから。

 チビ。この子、乗せてくれる?」

 僕と幹彦にとっては、チビはチビでしかない。

 恐縮を通り越して硬直する少年をチビの背中に座らせ、僕達は少年の村に向かって歩き出した。





お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 恐れ敬う対象っぽいものに乗せられる少年(笑)
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