探索者のための婚活パーティー
大皿に載った大きな塊肉のローストをスライスしたものを1枚食べ、うんと頷く。
「ジャイアントパイソンの子供か。美味しいな。ダンジョンの17階に出るんだったよね」
幹彦は同じくゴクンと飲み込み、言う。
「ああ。皮は硬いし、力は強いし、でもそれだけだったな」
「チビも来られたら良かったのに」
「流石に犬はだめだろう?」
「まあそうだけどね」
僕達はそっと周囲を見回した。横浜の海の見える有名なホテルの大広間には、若い男女が100名ほど集められていた。男性はほとんどがスーツで、女性はスーツもワンピースもいるが、総じてカラフルだ。
これは、婚活パーティーだ。探索者と、探索者と結婚したい人のための婚活パーティーで、探索者は白い名札を、探索者でない人は緑の名札を胸に付けている。
どうしてこんな所に僕と幹彦が出席しているのかと言えば、おばさんだ。おばさんは
「あなた達、いつまでウジウジと引きずっているの!傷付いたのを言い訳に、長い夏休みを楽しんでるだけじゃないの!」
とあながち外れてもいない点をついて怒り、僕達に、
「仕事はともかく、ちゃんと女性と話をしてごらんなさい!あれは運がわるかっただけよ!」
と言った。
それでおじさんと雅彦さんが、妥協案として、この婚活パーティーに1回参加することを思いついたのだ。
まあ、これを乗り切れば後は放っておいてもらえると、僕と幹彦は、こうして参加をしているのだった。
しかし探索者と言えば、成功者はとんでもない資産家になり、そうでない大多数はそれなりか貧乏という生活だ。なので、探索者と結婚したいという人は、まず間違いなく成功者を狙うわけで、値踏みする目付きと、それとなく収入やランクを探る会話のやり取りがえげつない。
僕も幹彦も、苦手とするタイプの女性ばかりの会場で、早々に食べ物を楽しむ事に切り替えたのはお察しの通りだ。
ヘタレと言われても、ダメなものはダメなのだ。
ただ、僕と幹彦は色々と知られてしまっているようで、
「大したことはないんですよ。ただの隠居なんで」
とか言っても信じてもらえず、目をぎらつかせた女性に放してもらえなかったのだが、徹底的に逃げて視線もあわせないでいると、こちらを狙っていた女性達は全く来なくなった。
助かったような、そうでないような、複雑な気分である。
「ん?政府の発表ですって」
同じように飲食に切り替えていた女性探索者が、スマホを見ながら声をあげた。
「どうしたって?」
「えっと、ああ。資源ダンジョン、資源を取り続けるために永遠に存続させる事になって、もし誰かが攻略したとしても、コアを外す事は法律で禁止ですって」
それを聞いて、僕は万歳しそうになった。
これであのマンションは、ずっと需要がある!
それが聞こえた探索者達は、口々に喋り出した。
「そりゃあ、そうだよな」
「ああ。資源の輸入をその分しなくて済むんだから。探索者から買い取る方が安く済む」
「俺達もその方が助かるから、ウィンウィンだな」
「あそこでいい鉱石を掘り当てたら、それで武器を作りたいのよね」
「いいよな、誂え!」
「ミスリルとかって出ると思うか?」
「合金の方が却っていいかも知れんぞ。科学はバカにしたもんじゃない」
「いや、魔術の伝導率がやっぱりいいんじゃないか、創作物では。ろくな魔術が使えない俺達としては、伝導率は大事だろ」
もう、ああでもないこうでもないと、非探索者そっちのけで議論し始めた。
それを聞きながら、僕と幹彦はオレンジのグラスを軽く当てて乾杯した。
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