覚悟の戦い
馬車は街道を急いでいたが、村に着く前に追いつかれてしまった。
「盗賊か」
忌々し気に、主人のモルスが嘆息した。
少し前に怪しい男らが前方でたむろしているのを商会が雇っている護衛の斥候が見付け、回り道をして急いで次の村へ入ろうとしたのだが、見付かり、追い付かれてしまった。
モルスは大商会の創始者で、のんびりと旅行がてらに行商して隣国に住む兄弟の所に行って来た帰りだった。
「あと少しでエルゼだというのに」
「何としても食い止めますので、馬車から出ないで下さい」
護衛はそう言って、馬車の外に出た。
護衛の彼らは、ベテランで真面目なメンバーだ。これまでにも、魔物が出た時も小規模の盗賊が出た時も、上手く追い払ったり仕留めたりして来た。
しかし今回の盗賊は10名ほどだ。
「来たか」
矢が飛来する音がして、モルスは自分と彼らの無事を祈った。
飛来する矢を上手く叩き落し、あるいは盾で弾き、こちらからも攻撃を仕掛けていく。
盗賊の方も矢を弾いたり叩き落したりして接近戦へと変わって行く。
と見えて、火の玉が飛来した。
「魔術士か!」
魔物でも魔術を使うものもいるので、魔術士と戦えない訳ではない。しかし人間は魔物と違って知恵もあるので、厄介である事は間違いがない。
それでも冒険者をする魔術士なら、そこまで連発できる者はいないし、大きな魔術を使うものもいない。そういう魔術士は冒険者などにならず、国の魔術士団員なり何なりになるのが常だからだ。
なのでいつもの如く、魔術士に魔術を撃たせてガス欠にし、ポーションを飲む暇を与えずに潰してしまう作戦に出た。
しかしここで思わぬ事が起こった。
別の方向からも水の玉が飛んで来るし、それとは別の火の槍も飛んで来た。
「こいつら、魔術士を複数仲間にしてやがるのか!?」
「リーダー!?」
「とにかく防げ!それで隙を見て攻め込むぞ!」
嫌な予感がしながらも、依頼主を放って逃げるわけにも行かないし、逃げ出せるとも思えなかった。
「ポーションもたっぷりあるぜ!へへっ!」
盗賊のリーダーだろう男がそう言って笑い、要求を出した。
「有り金と商品を積んだ馬車を置いて行け。そうすれば命は見逃してやるぜ」
不安と迷いを浮かべた仲間がリーダーの様子を見るように顔を向ける。
「騙されるな。こんな所に放り出されて無事に済むわけがないし、口封じに殺されないわけがないだろう。依頼主を何としても逃がすぞ」
悲愴な決意でリーダーは言い、
「すまん」
と仲間に謝った。
「いいんだなあ?じゃあ、やっちまえ!」
盗賊のリーダーが言って、盗賊たちは笑い声や勝鬨を上げた。そして、魔術士が一斉に攻撃を仕掛けて来た。
その時、強い竜巻が吹き荒れ、全員が目をつぶって体を低くした。
「どこにでもいるもんだな、ゴキブリどもめ」
新たな登場人物が現れた。
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