二重生活スタート
壁の撤去と増設、竈の撤去が終わると、後は自分達でリフォームを始めた。洗い場をタイル張りにして浴槽を持ち込み、バスルームに変える。家具はナチュラルな感じの物を買って来て運び込み、布団もカバー類を綿のものにして持ち込んだ。竈の代わりに卓上ガスコンロを置いておく。そしてキッチンの流し台と作業場には水の出る魔道具を一応設置しておいたし、浴槽には水の出る魔道具と水を温める魔道具を設置済みだ。
魔道具というものに興味が引かれたので、色々と仕組みを調べてみたいと思い、いくつか分解する用に買った。
これでエルゼでも暮らしていけそうだ。
日本の方でもマンションの建設は急ピッチで進んでおり、できてもいない今から、問い合わせが相次いでいると不動産会社の担当者は言っていた。
「俺、結婚したら、広い庭で大きな犬を飼ってDIYするのが夢だったんだよな」
幹彦はテーブルを器用に手作りしながらそう満足げに笑う。
その夢なら、結婚以外はもうかなっている。
「こっちはしたい事だけをする家にしよう、幹彦」
「そうだな。そうしようぜ」
顔を見合わせてにっこりする僕と幹彦を見て、チビは興味なさそうに目を閉じて昼寝し始めた。
こうして僕達は日本とエルゼを行き来して生活を始めた。
異世界では科学がまるで発展しておらず、医療すらも、魔術か薬草から作ったポーション頼りだ。なまじ魔術があるので、科学というものが発展どころか発生すらしていない。
それはそれで文化の形だし、郷に入れば郷に従えとも言う。なので僕達も、不便な所はこっそりと日本から持ち込んだ物を使いながら、こちらの生活も楽しむ事にした。
「なあなあ、史緒。こっちの魔物と向こうの魔物、変わりはないのか比べてみようぜ」
幹彦が言うが、それは確かに気にはなる。
「だったら、ダンジョンでもいいし、街の外にも魔物はいるぞ」
チビが言い、そう言えばと思い出した。
「やたらと高い塀が見えたけど、あれって魔物から街を守る為なのか、チビ」
チビは伸びをして説明する。
「魔物や外敵から防衛するためだな。
この世界で魔素が濃いのは、ダンジョンか魔の森だ。だから魔物はそこで生まれるし、そこが一番多い。でも、魔の森から出て来た魔物もいるから、まあ、そこら中にいるな」
それに、僕も幹彦もゴクリと唾を呑んだ。
「危険な世界なんだな」
「治癒は神官と一部の冒険者ができるくらいだが、珍しい。だから冒険者は皆いつもポーションを携帯するものだ。形だけでも持っておくか?治癒魔術を発動してる所を見られたら、騒ぎになりかねんぞ」
チビがアドバイスしてくれた。なるべく目立たないようにという僕と幹彦の方針を汲んでのアドバイスだ。
「ポーションか。そうだな。そう言えば地球でも、その方がいいな」
幹彦が思い出したように言う。
「確かにな。今までケガらしいケガをしてなかったからうっかりしてたな」
笑い、僕達は魔物狩りの前に買い物に行こうかと家を出た。
中心地にある商店街へ行き、ポーションを見た。
小瓶に入った液体で、緑色や黄色や赤色をしていた。
僕も幹彦も、ポーションを見るのは地球でもエルゼでも初めてだ。
「へえ。ジュースみたいだなあ。どんな味がするんだろう?」
興味津々で瓶を見ていると、幹彦も同じように見ていたが、
「どのくらい効果があるか試しておこうぜ」
と言い出した。
大事な事ではあるが、どこまで試すかは難しい。
店番をしていた店員は苦笑を浮かべた。
「まあ、気になるのはわかるし、大事なのもわかるけど、うちのは基準通りだから」
言って、黄色のものを指す。
「この体力回復薬は、下級ではバテて動けないのが歩いて移動できるくらい。上級なら元通りのピンピンになるくらい。中級はその間」
次に赤色のものを指す。
「この魔力回復薬は、下級は初級の魔術5回分。中級は中級の魔術5回分。上級は上級の魔術3回分」
最後に緑色のものを指す。
「この治癒薬は、下級は切り傷や擦り傷なんか用。中級は捻挫や深い傷用。上級は骨折や太い血管まで切れた傷用」
ざっくりとした説明に僕は首を傾けた。
「血管……大動脈でも?脳内出血とかの場合は?」
店員は首を傾け、
「死にかけは神官に頼まなきゃ、そりゃあだめよ、お客さん」
それで、一応全部のポーションを1つずつ買っておいた。
「なあ、幹彦」
「言うな、史緒。わかってる」
幹彦は頷き、チビは
「物好きだな」
と嘆息し、そうして僕はいそいそとポーションをカバンにしまいこんだ。
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