怪獣映画は、倒した後の事は言ってない
瓦礫の山の間に、タンスや絨毯や家具などの残骸が見える。このマンションの元住民の持ち物だ。
「見事だな」
関係者と幹彦と並んで元マンションを見ていた。
住民の避難が間に合ってけが人や死人が出なかったのが奇蹟のように思える。
「お話しした通り、住民の方は政府が用意した仮設住宅に移り、それから、補償金をもらって生活を立て直すことになります。住民の方への何かしらの補償は、麻生さんが負うことはありませんし、もし裁判を起こされる事があっても、負ける事はありませんし、その時は我が社の顧問弁護士がなんとかしますので、ご安心ください」
不動産会社の社員が、そう気遣うようにして言った。
「はい。その時はよろしくお願いします」
神妙に頭を下げると、やや申し訳なさそうに、防衛省の官僚が口を開く。
「どうしても出ていた魔物を無力化するために、マンションを含めて攻撃対象にするしかなく、ええ、これは法律でも」
「はい、それはわかっています。あれが出て来て、人が生身でどうにかできるとは思えませんしね。しかたがないでしょう」
転がったゴーレムを見て、引き攣った笑みを浮かべる。
全長5メートルもあるかというような、二昔ほど前のロボットのようなものだ。硬い鉱石や金属でできているので硬い。それが暴れてマンションの破壊をし、ミサイルで狙うのに邪魔になるマンションを壊したのだが、ダンジョン内ではなく周囲は生活空間だし、そこにいるのは一般人だ。とにかくそこから進ませずに早く倒さないと被害が大きくなるのは目に見えている。だから自衛隊の作戦に文句を言うつもりはない。
官僚は目に見えてほっとしたように表情を緩めた。
「ご理解いただき、ありがとうございます。撤去はこちらでして、更地にいたしますので」
「よろしくお願いします」
撤去費用もバカにならないからな。
「建設費のローンですが」
次は銀行員が、申し訳なさそうにしながらも強気な顔付きで口を開いた。
「災害などで現物が無くなっても、ローンは関係なく残る事になっておりますので、これまで通りに返済をお願いする事になります」
僕だけでなく全員が、何とも言えない顔になった。
「でも、何とかならないんですか?」
幹彦が言うが、銀行員は申し訳ないと眉を下げて笑った。
「個人的には大変心苦しいのですが、そういう決まりになっておりますので。免責事項にはあてはまりません。
あと、間違いなくこの辺りの地価が急落するでしょう。あの土地を売っても、借り入れ分には届かないかと思います」
よろりと倒れそうになった。
「まあ、これまでの返済額は難しいというのであれば、月々の返済額を減らして期間を長くするという契約に変更が可能ですので」
それは、死んで生命保険で返すとかいう話になるのだろうか。
幹彦が何か言いかけて口を閉じ、チビは気遣うように手の甲を舐めた。
「少し、考えさせていただいてもよろしいでしょうか」
「はい、もちろんです」
そこで今度は色々な書類にサインするために、全員で近くの仮事務所に場所を移した。
裏の山にひっそりとできていたダンジョンは、入り口付近だけは探索者が入って安全を確認しており、その外側を自衛隊が囲んで侵入者がないようにと備えている。
「氾濫が収まったのだけは良かったな」
幹彦が言うように、ダンジョンは普通程度の静けさと危険度を取り戻したと判断されていた。これからはここも、攻略対象になる。
「フフフ。できれば憎いこいつをどうにかしてやりたいな」
低い声で笑うと、幹彦は恐る恐るというふうに訊いた。
「どうにか?攻略するってことか?」
「そうだな。それで、ダンジョンボスってやつがいるなら、泣くまで攻撃して土下座させるとか」
チビは寝そべっていたが、ムクリと体を起こして嬉しそうに言った。
「よし。じゃあ、あそこのダンジョンを攻略するんだな。任せておけ」
殺る気だ。
「それにしても、サラリーマンにはきつい返済額だろ?よっぽど探索者としてがんばらないと……会社員をやめて自由業になったのに、やる事は同じ?」
幹彦は愕然とした顔をした。
「怪獣映画とかって、怪獣を倒して万歳で終わるけど、その後にもまだ戦いはあるんだなあ。地味だから全然出て来ないけど」
僕はフッと笑った。
何とかしないと、隠居どころではない。
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