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若隠居のススメ~ペットと家庭菜園で気ままなのんびり生活。の、はず  作者: JUN


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若隠居の祭り(4)

 短い悲鳴と怒号が飛び交う。

 と、人波が割れ、数人が急停止したトラックへ向かって走って行く。そしてその後を、迷惑そうな怒号と悲鳴、制服の警察官が追いかけていく。

 どうも、警察官に追われる数人が、人波の中に飛び込んで、トラックの前へと走って行っているようだ。

 と、トラックの運転席のドアが外から開けられ、運転手が追われているらしい数人に引きずり下ろされると、代わりにその彼らがトラックに飛び乗った。

「あ、あいつら逃げるぞ」

「警察官は──人波に邪魔されてるのか」

「ああっ!? 肉は!?」

 僕と幹彦と職員の声が交差した。

 そうして、トラックは強引に人波を割ってバックしていこうとしている。

「あやつ、肉を独り占めする気だな!?」

 チビが唸り声を上げた。

「神戸ビーフ、置いていくでやんすよ!」

「逃がさないわよー!」

「うむ、一大事じゃ!」

 ガン助、ピーコ、じいも焦った声を上げ、そして、弾かれたように飛び出して行った。

「逃がすか、盗人めが!」

「あ、チビ!?

 行っちゃったよ、幹彦!」

「お、追うぞ、史緒!」

 僕と幹彦も慌ててチビたちの後を追う。

 ただでさえ混み合った人混みで、逃走者たちが無理矢理走って行ったので転んだ人もいて、進むのも困難だ。警察官ですらも、なかなか辿り着けずに難儀している。

 その先で、トラックをジャックした逃走者たちはトラックで逃走しようとしていた。

 そこに稲妻のようにトラックにとびかかった何かがあった。チビたちだ。

「待て!」

「肉、置いていくでやんすよ!」

「逃がさないわー!」

「逃がさんぞ」

 トラックの下に潜り込んだガン助とじいがトラックを地面から少し浮かせて走れないようにし、チビがフロントガラスに張り付くようにして車内の逃走者を睨み付け、ピーコが薄く開いた窓の隙間から入り込んで運転手をつつき回す。

「痛い、痛い痛い痛い!!」

「た、助けて!!」

「何だよお!?」

「うわあ、おふくろぉ!」

 車内は阿鼻叫喚の様相を呈し、やっと追いついた警察官と僕たちがドアを開けると、逃走者たちは転がるようにして飛び降りてきた。

 涙と鼻でグシャグシャだ。

「皆もういいよ」

 言うと、ガン助とじいはトラックを下ろし、チビはフロントガラスからひらりと飛び降り、ピーコは彼らの真ん前に降り立った。

「ヒイッ!?」

「何だよ、こいつら!」

 逃走者は怯え、警察官もやや警戒気味に見ているので、僕は慌てて、愛想笑いを浮かべて割り込んだ。

「あ、ペットです。かわいいでしょ、子犬と小鳥と亀と貝なんですけどね」

「そうそう。おまわりさん、こいつら、捕まえられて良かったです! せっかくの祭りなのに」

 幹彦がそう言いながら笑い、職員が走って来て、

「流石は有名探索者と従魔です! お疲れ様でした!」

と言ったので、「なんだ」という雰囲気になる。しかも、

「すっげえ」

「かわいい!」

「よくやった、偉いぞ!」

と口々に周囲の客が言うので、追求する者がいなくなった。

 僕と幹彦と職員は、内心の冷や汗を拭い、

「さあ、焼き肉食べ比べですよ! チビちゃんたちもご苦労様でした。しっかり食べてくださいね!」

と笑い、チビたちは尻尾を振り、僕たちも一緒にそそくさとその場を離れたのだった。


 その後無事に探索者協会による焼き肉食べ比べは行われ、僕たちも両方の肉の食べ比べをした。

 神戸ビーフは、やっぱり美味しかった。流石はブランド牛だ。チビたちにも好評で、もう一度食べたいと思うような肉だった。

 ダンジョン牛は、食べ慣れてはいる。しかしこうして比較してみると、僕たちの見解は一致した。

「部位にもよるんだろうけど、どっちも柔らかいし、旨味は両方同じくらいあるな」

「ああ。香りもあるぜ」

「神戸ビーフに匹敵するくらいの獲物だったのか、我が家の肉は」

「知らなかったでやんすねえ」

「だったら、いつでも食べ放題ねー」

「贅沢な食卓だったんじゃの」

 僕たちは呆然とした。知らなかった。ダンジョン産の食品は味がいいとは聞いていたし知ってもいたが、高級ブランド肉の方を知らなかったので、比較できなかったのだ。

 でもこれなら、今後もうちの食料はダンジョンや異世界のものを中心にしていこう。それでいてお財布にも優しいとか、最高だ。

 そう考えていると、トラックを止めたお手柄ペットということで、客たちに、リンゴ飴やら焼き鳥やらカステラやらを色々とチビたちは与えられ始めた。

 チビたちはかわいいペットのふりをして、益々貢ぎ物が増えていく。誰も、このチビたちがドラゴンにすら立ち向かって行き、しかもそれに負けないほどの生き物だなんて、思ってもみないだろう。

 それを僕と幹彦は苦笑して見ていたが、それらが終わって家へ帰ろうかとしたとき、チビたちが口を揃えて言った。

「祭り、最高ー!」

「うむ。特に、祭りは子犬の姿に限るな」

 はいはい、そうでしょうとも。

 僕と幹彦は、たまらずに噴きだしたのだった。







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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 300ページ目、おめでとうございます! 身軽なチビたち、お手柄でしたね。ガン助たちが車を浮かせて発進させられなくしたのが特にグッジョブ。ピーコがつつき回すだけだと車(=肉)が事故ったかも。…
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