若隠居の祭り(2)
オーリスに今後の協力も頼んだと、日本へ戻って神谷さんに報告を入れておく。
これでしばらくは多分大丈夫だとは思うが、恒久的に安心できるというわけではない。
しかし、そんな未来のことはどうしようもない。将来の各魔王の強さもわからないし、地球とつながった辺りから集落を移すことも考えられる。だから、その時の人にどうにかしてもらおう。
そう、全部終わった気分で今日は探索も休んでのんびりしようとリビングで本を読んでいると、市報を読んでいた幹彦が声を上げた。
「へえ。市民フェスティバル、やるんだってさ」
僕は小説から目を上げた。
「お祭りかあ。懐かしいな。小学生の頃は毎回行っていたのに、いつの間にか行かなくなったんだよな」
子供の頃は家族で行ったものだが、いつの頃からか友達と一緒に小遣いを持って行くようになった。
屋台の買い食いも、高い物は子供の小遣いでは手が届かず、たこ焼きやスーパーボールすくい、輪投げやくじ引き、スマートボールなどをした思い出がある。
チョコバナナを買って食べようとしたら根元から折れたことも、輪投げで最後のひとつを投げる瞬間に人がぶつかってきてあらぬ方向へ輪が飛んで行ったことも、リンゴ飴をかじったらグラグラしていた歯が抜けて血がだらだらと流れてきたことも、今となっては懐かしくもいい思い出だ。
「懐かしいなあ。射的は、当たっても台から落ちないのに腹が立ったけど、くじ引きでゲームが当たったこともあるし、プラモデルも当たったんだよな、確か」
幹彦は楽しそうに目を細めて言う。
一緒に行った同じ祭りの思い出なのに、違う祭りの思い出のように聞こえるのは、きっと気のせいだ。
「祭りか。賑やかなんだろうな。ただでさえこっちの方が向こうの世界より人が多いのだしな」
チビが言うのに、僕も幹彦も頷いて教える。
「凄い人だよ。屋台もたくさん色んなものがあるし、お化け屋敷とか、舞台で市民の空手とか合唱とかバンドなんかのショーとかもあったしね」
「探索者協会が資料展示と、焼き肉の無料配布をするらしいぜ。神戸ビーフとダンジョンの牛の食べ比べ」
チビとピーコとガン助とじいが急に目の色を変えた。
「それは興味があるな。両方食えるのか。腹一杯か」
幹彦は少し考えながらどうにか答える。
「まあ、味見程度だろうな」
チビたちは顔を見合わせ、一斉に姿勢を正した。
「よし。祭りに行くぞ」
行く気満々──いや、食べる気満々だ。
「神戸ビーフって、高くて美味しいお肉ってテレビで言ってたもんねー」
「うむ、そうじゃの。ダンジョンの中に神戸牛がいればいいのに、いないからの。ありがたいの」
僕も想像して、ごくりと唾を飲み込んだ。
「あれは確かに美味しいよね。いやあ、太っ腹だなあ」
「ダンジョンや探索者への理解を得ないといけないからな。協会も色々と考えるみたいだな」
幹彦は目を輝かせ、
「よし。皆で祭りに行こうぜ」
と宣言した。




