若隠居の祭り(1)
僕たちは異世界で、トゥリス、オーリスと一緒に食事をしながら雑談をしていた。
終戦協定締結にどの町も沸き立ち、終戦記念の祭りが方々で開催されているし、大陸間の流通も盛んになり始めていた。船の増便はそうすぐにはできないということで、ドラゴン便が大忙しだそうだ。
トゥリスも忙しいということだが、ドラゴンは軒並み、
「美味しい物を食べないと飛べない」
と主張して、食べる時間は確保しているという。
「これ、美味しい。ビールがすすむ」
トゥリスは枝豆に夢中だ。無表情ながらも、慣れた目で見ると上機嫌なのがわかる。
「これは止まらないな」
オーリスも、ビールと枝豆を交互に口に運んで上機嫌だ。
オーリスの機嫌がいいのは、枝豆だけのせいではない。不戦敗宣言を烈王が守るとすれば、もう大魔王戦は終わったようなものだからだ。
「トゥリス。そろそろ……」
商業ギルドから呼び出しがかかり、トゥリスは無表情ながらも嫌そうにしながら仕事に出て行く。
「飲酒運転……いや、飲酒飛行だけど大丈夫なのかな」
心配するが、オーリスは大きな口を開けて笑った。
「そんなもの、解毒できるんだから即分解できているさ」
なるほど。解毒スキルがあれば二日酔いは無縁となるんだな。うらやましがる人がたくさんいそうだな。
「それより、この前はやばかったな」
オーリスは声を低くして言った。
「いや、オレも魔界で追い払うべく攻撃はしたんだがな、何せやつには攻撃手段がないようなものだからなあ」
僕たちはそれに小さく頷く。
「物理だと接触した瞬間に吸収される、魔術でも呑み込む、だもんなあ」
幹彦が嘆息する。
「スライムには種類によっては国を滅ぼしかねんものもいるが、あれよりは対処方法はまだあるからな」
チビもそう言って、骨付きハムをガリガリと骨ごと噛んだ。
ピーコはチキンソテー、ガン助は煮込みハンバーグ、じいは兎肉のシチューを味わっている。
「たいしたもんだ」
「いえいえ。たまたまですよ」
そう。たまたま地下室で色んなスライムを一撃で滅ぼしてしまったという経験があったればこその思いつきだ。
「それよりも、烈王ですよ。大丈夫なんでしょうね」
「あの虚王ってやつも、余計なことをしでかしそうだぜ」
僕と幹彦が言えば、オーリスも真面目な顔付きになった。
「手出しはできないはずなんだ。記録するだけ。大丈夫なはずだ。
と言っても、今回は呑王を誘導したって言ってたんだな」
それに僕たちが頷くと、何かを考え込むようにしながら黙って枝豆を口に入れ、ビールをごくごくと飲んで口を開いた。
「その本のことは知ってる。ルールブックとか呼ぶやつもいたな。本当かどうかは知らないが、何者かが大魔王戦の最中の出来事をあの本に勝手に記入するらしい。そこに書かれていることに嘘はなく、それを虚王が追認することで決定されるんだ。
地上の人間を過去に使ったことがあるらしいけど、大概は役に立たなかったとか聞いたな」
そりゃあ、魔人と比べれば大抵の世界の生物は弱いだろうな。魔素の量が違いすぎる。もし魔界に魔術を使用できなくする魔道具を持ち込んだとしても、魔素が多すぎて故障するのではないだろうか。
例を挙げるとすれば、除湿機は優秀だが、水中に沈めて除湿しようとしても使えないように。
「その、魔界の意志とやらが認めたら本に記載されるんですか」
半信半疑だし、その魔界の意志とやらがどこにいるどんなものか想像もつかず、胡散臭そうにそう確認する。
「らしい。何せ昔からそういうものだったらしいし、よくは知らないな」
オーリスは肩をすくめ、改めて言った。
「ま、あとは烈王次第ってことだが、烈王だってバカじゃない。無駄に戦って戦力を減らさずとも勝ちが決まってるんだ。無用な戦いはふっかけては来ないだろう。
となると、心配なのは虚王だが、介入は禁止されているからな。まあ呑王を誘導したっていうのも、ギリギリのところじゃないか」
ギリギリのところで烈王をたきつけるとか? 烈王は呑王と違って考えられる魔人だそうだし、そそのかされる心配は低いのかな。
「まあ、お互いにまだ一応警戒はしておこう。大魔王戦は正式に終結宣言が出されていないからな」
オーリスが言って、
「この世界はやっと終戦になって平和なもんだけどな」
と目を細めて表情を緩ませた。




