若隠居の真実の愛(2)
チーム貴婦人とは、翌日ダンジョンのゲート前で再会した。
北の味覚を目当てに旅行半分で来たそうで、ダンジョン内でばったりとアイナたちと会い、お菓子をあげたらなつかれたという。
あれが魔王とその側近だとは、誰も想像できないだろうな……。
まあ、仲良くやっているらしい。
「今日は海産物をたくさん狙うつもりですわ」
「愛那さんと幸さん、今日もいるといいんですけど」
「どこに住んでいるのか教えてくれないのよねえ」
貴婦人の彼女たちはそう言って軽く嘆息するが、言えないよなあ、と僕たちは目で言い合った。
「一応今日はチーズケーキを持ってきたので、よろしければミキ様とフミ様もご一緒しません?」
「美味しい唐揚げもあるのよ。美食の匠特製スパイスの逸品よ」
そう言われてチビは尻尾を振り、一緒に行くことになってしまった。
しかし、一緒にダンジョンで行動するのは初めてで、貴婦人の戦い方を僕たちは初めてじっくりと見ることになった。
意外と堅実で、「おほほほほ」と笑いながら魔物を狩っていくスタイルは、独特ながら、強い。
僕も幹彦も、彼女たちを見直す思いだった。
「なんか、思ってたより凄えな」
ぼそりと幹彦が言うのに、僕もそっと頷いた。
「そうだよね。メンタルは強そうだと思ってたけど、どことなくおっとりとしてるし、そんなに強いとは思わなかったよ」
チビは小声で囁くように言った。
「うむ。連携の妙というところだな」
僕と幹彦は、
「連携かあ」
と言いながら、彼女たちの動きを見、僕たちも負けじと魔物を狩って回った。
そうして調子よく狩って進んでいくと、安全地帯になっている階でアイナとサチャと会ったので、チーズケーキと紅茶でお茶会を始めた。
上機嫌のアイナを彼女たちに任せ、こっそりとサチャを離れたところへと引っ張り、訊く。
「どうなった? 何か動きはあったのか?」
小声で幹彦が訊くのに、サチャも小声で答える。
「今のところ変化はない。見張りは増やしているし、何かあれば凪王へ知らせる手はずは整っている」
「そうか。このまま無事に済めばいいけど」
三人で重い溜め息をつき、アイナやチビたちがチーム貴婦人の皆と目を輝かせてチーズケーキと特製唐揚げを堪能しているのを見やった。
「幸さん、ミキ様、フミ様。さあどうぞ」
「あ、いただきます」
「美味そう」
「おお、チーズケーキですか、これが」
通りかかった探索者が二度見する中、視線をものともせずに僕たちはお茶会を楽しんでいた。
僕たちもお菓子を出して皆で和やかにお茶を楽しんでいると、まずチビが耳をピクリと動かし、続いて幹彦が目をダンジョンの奥の方へとやった。それから少しすると、奥の方から、転がるように走ってくる男が見えた。
サチャが気付いてギョッとしたような顔付きになるが、その男は安堵したような表情を浮かべて近付いて来ると、サチャに向かって言った。
「良かった、探しました。
陛下は一緒じゃないんですか」
キョロキョロする男に、サチャは慌て、アイナは下を向き、貴婦人たちは首を傾げる。
「へ、へ、陛下って何のこと──」
誤魔化そうとするサチャを遮り、男ははっとしたように表情を引き締めた。
「大変なんです! ベネ元将軍たちがまたクーデターを!」
それにアイナは硬直し、サチャと僕と幹彦とチビは嘆息した。
「懲りねえやつだぜ」
「全くだ。前回あれだけはっきりと負けたのに」
「すまん、フミオ、ミキヒコ。もう一度手を貸してもらえるか」
サチャが言い、仕方が無いな、と思った僕たちだったが、男は焦ったように言葉を続けた。
「それがベネ元将軍が陛下を妻に迎えると、将軍のご両親が言って回って。それで一枚岩になると乗り気な者もいて」
アイナが紅茶のカップを取り落とし、サチャが怒りも露わに立ち上がった。
「何!? だいたい、ベネ将軍には婚約者もいるだろう。
それで、ベネ将軍たちは今どこにいる」
「こっちに向かってきています」
男はサチャの怒りにびびりながら答えた。
僕たちも立ち上がる。
「しょうがねえな」
そこで、貴婦人のメンバーがいたことを思い出した。
「あ……」
「その、なんだ。これは政府がらみの秘密でだな」
幹彦も冷や汗を垂らしながら口を開く。
「あれだ。詳しくはせめて支部長に訊いてくれ。話していいかどうか俺にはわからん。ただ、それまでは秘密にしておいてくれ」
「悪いね」
僕たちは無理矢理愛想笑いを浮かべてそう頼んだ。
その時、通路の奥から高笑いが聞こえた。
「あの声は、ベネだぞ!」
「大変だ!
あ、危ないから奥に来ないでくださいね!」
貴婦人にそう言い置いて、僕たちは先の方へと走ってアイナたちを追いかけた。




