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若隠居のススメ~ペットと家庭菜園で気ままなのんびり生活。の、はず  作者: JUN


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若隠居の真実の愛(1)

 魔界へと続くダンジョンは奥に通路を遮るための大岩が置かれており、魔人がそこを通過するときには、岩に刻まれた転移陣を利用しているそうだ。

 僕たちが日常的に使っているどこでも行ったことのある場所へ転移する魔術とは、仕組みが違うらしい。

 やはり、魔人と地上人とでは、魔術の系統が違うということのようだ。

 それとアイナとサチャはダンジョン内を歩くことがこれからもあるからという理由から、秘密裏に日本人名義の探索者免許を発行された。アイナは「飯田愛那(いいだあいな)」、サチャは「要田 幸(ようだ さち)」だ。

 政府の人間との会談の為にというのが主な利用目的だが、少しはお小遣い程度に魔物を狩って、それで少ないながらも魔素のあるダンジョンの売店で買い食いすることを見逃すことにしていると神谷さんに聞いた。

 北海道ダンジョンへ行った僕たちが見ているこの光景は、まさにその現場だった。

 見知ったチームと一緒になって、ちょうどアイナとサチャが目を輝かせてクリームパンをぱくついているところだった。

「幸せそうな顔してるなあ」

 幹彦が言う。

「魔界には、甘い物はなさそうでやんすね」

「うむ。魔界のことがひとつわかったな」

 チビは尤もらしく言った。

 その彼女たちのそばにいたのは、同期の探索者チーム、チーム貴婦人の皆だ。

 彼女たちは少し変わっていて、話していても異性とも同性とも違う感じで、話がしやすい。それで僕も幹彦もどこか安心して話ができる、数少ない女性となっている。

「美味しいでしょう」

「チョコレートパンもお勧めよ」

 貴婦人が言うと、アイナとサチャは目を丸くする。

「チョコレートがパンに!?」

「ゆ、夢のようなパンだな!」

 よくわからないが、仲良くなっているらしい。

 まあ、貴婦人の皆は親切だからな。思い出したくもないが、以前、元婚約者の西山さんを撃退することができるきっかけを作るような発言をしてくれたのも彼女たちだったし。

 何より、有名になってしまった後、態度を変える知人が少なくなかった中、全く変わらなかったのが彼女たちだ。

 だから、貴婦人の彼女たちのことは、信用している。

 考えていると、ひとりが気付いてこちらに手を振り、それで皆がこちらに気付いた。

「お久しぶりね、フミ様、ミキ様。それにチビちゃんたちも相変わらずかわいらしい」

「ははは。様はやめてくれよ」

 僕と幹彦は苦笑いを浮かべ、チビたちは盛大に尻尾を振って、貴婦人の彼女たちに撫でられている。

「それにふたりとも、上手くやっているようだね。安心したよ。問題はない?」

 無言のうちに、「オーリスと話はしたんだろうな」と視線にこめる。

 アイナは視線を微妙にそらしてパンにかぶりつき、サチャは目で微かに頷いて見せた。あれはきっと、「大丈夫、心配するな」に違いない。いや、そうであって欲しい。

「売店の新発売のピーチデニッシュの美味しさに意気投合したのがきっかけで、仲良くなったのよ。ねえ」

 貴婦人のメンバーに言われて、アイナとサチャはコクコクと頷いた。

「あれは素晴らしい」

「この地の宝だな」

 アイナとサチャは、感動しているような顔付きだ。

「ちょっと変わった方たちなのね。何か事情があってあまり世間を知らないみたいな。それで隠れたお宝があると、順番に教えているところなのよ」

「そうよ、貴婦人のたしなみというものをね」

「ふふふ」

「おほほ」

 僕と幹彦は、その笑みになぜか背筋が寒くなったが、詳しく聞かない方がいいような気がする。

「そ、そうか。まあ、貴婦人は面倒見もいいし、心配はねえな」

 幹彦は無理矢理そう言って笑い、それで楽しそうにしている彼女たちに手を振って別れた。

「何かあやつらからは、普通とは違う力を感じる……」

 チビが小声で言うのに、僕と幹彦は同時に頷いて素早くその場を後にした。

 そして申告と買い取りを済ませ、着替えを済ませて外に出ると、アイナとサチャが現われて、合図をしてくる。

 オーリスのことだろうと、アイナとサチャに与えられている小部屋へと目立たないように移動した。協会職員しか立ち入りできない目立たない場所にある小部屋だ。

 ソファとテーブル、グラスや小型冷蔵庫、湯沸かしポットが置かれている。

「オーリスとの話はどうなったんだ。上手くいったのか」

 幹彦が切り出すと、サチャが軽く嘆息して答えた。

「何とか、同盟関係にあると公表することにまとまりました。とは言え、呑王に効果があるかは不明だし、烈王にしか関係はないと思いますが。

 最初はダメかと思いましたよ。陛下が一言も喋らないし、動かないので、人形かと疑われて」

 それにアイナは、貴婦人お勧めらしいパイをチビチビと囓りながらそっぽをむく。

「まあ、まとまってよかったぜ」

「烈王と呑王が争うことになるとして、それからどうなるのかな。陰王と凪王が不戦敗で、虚王は観測のみなんだよね」

 サチャは人数分のお茶をティーパックで淹れながら答える。

「勝った方が大魔王ということで、今私たち陰王と凪王がいる場所以外の魔界を好きに扱う権利を得ます。私たち陰王と凪王は、魔界で食糧を得るにも、今の狭くて貧しい土地でしか得られないことになりますが、千年の間、滅ぶことはなくなります。戦争では」

 緩やかに食糧難で滅ぶ危機はあるということなのだろうか。

 それにしても、アイナはまるでサチャに丸投げだな。

「虚王ってやつに会ったんだけど、何かするかもしれないから、注意した方がいいみたいだよ。凪王もしばらくは魔界で待機するって言ってたし」

「なるほど。我々もその方がよさそうですね」

 サチャが真面目な顔で言うのに、アイナは不満そうに顔をしかめた。

「買い物しに来たいのに。商品に貼ってあるシールを集めればもうひとつプレゼントなんだって」

 それに全員ががっくりと首を垂れた。

「サチャ。がんばれよ」

 幹彦が力なく笑って言い、チビが、

「うむ。今度肉を差し入れてやろう。タレもつけてやる」

と元気付けた。

 何もなく無事に過ぎれば──と誰もが願った。

 が、願いというものは、儚いものである。







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挿絵(By みてみん)

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[気になる点] アイナはコミュ障を言い訳にした傲慢ニートでは? ここまでくると私欲を満たすことしかしない味方の足を引っ張りまくる邪魔でしかないやつすぎて何かが湧く
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