若隠居の会議の裏側(4)
エスカベル大陸にある人の国の王や王の代理人、ラドライエ大陸の各部族の族長たちは、議論を繰り返していた。
「今までこちらの冒険者を使って人体実験をしていたというではありませんか。その補償はいかがするおつもりですか」
「それを言うなら、獣人を散々拉致して奴隷にして売っていたことはどうするつもりです」
「人間の兵士を──」
「獣人の村を──」
お互いの非をあげつらい、どうにかして有利に終戦合意を迎えたいと頑張っている。
その合間に、これまで海を挟んでラドライエ大陸と向かい合っていた沿岸部の国は、各国から予算を得ていたのがなくなることに危機感を覚え、どうにかしたいと策略を巡らせている。
つまり、どっちもどっちで、一向に会議は進んでいなかった。
話し合いにがっつり参加しなければいけない立場ではない護衛のサムやエラリイだけでなく、誰もが飽き飽きし、退屈していた。
そこに襲撃があり、捕まえた召喚士を突き飛ばしながら躍り込んできたのが、僕たちだ。
「な、何だ!?」
誰もが驚き、中には居眠り寸前のところを飛び起き、入り口を見る。
「襲撃者を捕まえました。襲ってきたのは人と、召喚されたドラゴンゾンビでした。ドラゴンゾンビの魔石を使い、そこに魂を召喚して何度も使役するタイプのやり方でした」
クリルが代表してそう言うと、彼らは騒ぎ出した。
「人族か! ここで我らを襲うつもりだったのか!?」
「いや、ドラゴンゾンビの魔石なんてこちらでは手に入らない。そちらでないとね!」
「その召喚方法は、一部の学派しか使わない方法ではなかったかね」
「そうだ。エルフと一部の学派の人が昔確立させたやり方だった。今では廃れて、人では使う召喚士はいないと思うがね」
お互いに、相手の策略だと言い合う。
国会のヤジを思い出した。どうして大人のくせに、偉い人というのは順番に喋るということができないのだろう。
チビがほとほと呆れたように嘆息して丸くなる。
「ちょっといいですか! 誰に何を命令されたのか、聞いています」
幹彦がよく通る声で言うと、ピタリと彼らは口を閉じ、疑心暗鬼の目つきで互いを見る。
「ダリ辺境伯の命令ですね。会議を中止に追い込み防衛予算をぶんどれるようにしろ、と」
沿岸部の都市を治める貴族で、そこを領土に含む国の宰相は青くなった。
「ま、まさか、そんな浅はかな……」
そう言いたい気持ちはわかるが、真実だ。
「やっぱり、貴様ら──!」
獣人たちの目つきが険しくなる。
「で、彼らにドラゴンゾンビの魔石を渡したのが犬人族の商人でした」
それで反対に、人側の皆が獣人を睨む。
「そっちこそ上手く操って──!」
「汚いぞ!」
やがて僕たちにまで飛び火し、ダリのいる国の宰相が噛みつく。
「信用できるか! 貴様らは何者だ!?」
それに、自信満々に答える。
「隠居です!」
なぜか、シーンとする。
「ゴホン。ええっと、彼らは七大冒険者で、中立な立場であり、信用できます」
マルメラ王国の王が言うと、知り合いの獣人の族長たちが口々に頷いて言う。
「ああ。やつらは信用に値する」
「人族の中で、唯一信用できるやつらだ」
「腕が立つし、メシも美味い」
そこで、襲撃犯たちを連行し、会議は明日続きを行う事となった。
僕たちもここに留まることになり、獣人たちの囲む火の側に呼ばれた。どうせ人族側に知り合いはいない。こちらに合流することにした。
コーエンたちも興味があるらしく、ちゃっかり着いてきた。
「ひひひっ。例の酒を持ってきたぞ」
サムが嬉しそうに言い、熊人族もハチミツのビンを出す。
「特製のケーキも、ハチミツ酒もあるぞ」
「ジャーキーもあるぜ」
竜人族もそう言って燻製をピラピラとさせた。
そうやって各々が食べ物や飲み物を出して、宴会の様相となる。
「その節はどうも」
「さあ飲もう!」
「今日はあのドラゴン様はいらっしゃらないのか」
「ええっと、その、久しぶりですな」
「あれ以来蜂の巣も増えてね」
「久しぶりじゃな。珍しい鉱物は持っとらんのか」
「お世話になりましたね。我々エルフも、開かれた集落を目指すことになりましたよ」
「幹彦殿!是非模擬戦を!」
騒がしいが、次々とこうして声をかけてもらえるのは嬉しいものだ。
順番に彼らに答えながら、酒を飲み、こちらも料理を出す。
そうして、飲み比べをしたり模擬戦をしたりして楽しむ。
そんな時、強い視線を感じた。人族側の数名だ。獣人側と違って、こちらに顔見知りはいないし、誰が誰かよく知らない。ただ、どこかの国の偉い人だというのは間違いない。
「飲みませんか」
声をかけると、彼らも嬉々として寄ってきた。
こちらでも食卓外交というものはあって、進まない会議を進めるきっかけを探しているのだろう。
そして、従者に出させた飲み物や食べ物を差し出し、獣人側の食べ物や飲み物を口にする。
大宴会の、始まりだった。




