若隠居の会議の裏側(2)
終戦協定に向けての会議の話は、瞬く間に世間に広まり、すぐに実現した。戦争にうんざりとしていたのは誰しも同じだったらしい。
しかし、少しでも有利な条件を引き出して終戦にしたいというのはどちらともが考えることで、そのため、会議はもめることが予測される。
それと、終戦に大方の者が賛成するとは言え、反対する者もいる。それで潤っていた者と、戦争で親族を亡くしてずっと恨みを引き継いで語ってきた者、思い込みから相手を排斥したいとしか思えない者だ。
そういう反対派はテロを起こして会議の邪魔をしてくる可能性もあり、会議の場所や警護については、知恵を絞ったようだ。その結果、会議の場所は、互いの大陸の間にある小島──そう、元勇者がダンジョンを作っていたあの小島だ──で、警護は互いの警護官が少数のほか、七大冒険者にも依頼された。
僕と幹彦も、隠居の名誉称号と思っていたのに、仕事だ。
でも、終戦協定の警護なら喜んで引き受けよう。
どちらの大陸にも友人ができたし、自由に行き来できた方がいい。
そう思って臨んだ現地で、ほかの七大冒険者のメンバーに会った。
「久しぶり」
ほかの七大冒険者と久しぶりの顔合わせで挨拶をする。
「いよう、元気そうだな」
片手を上げてにこにこしながら狂戦士クリルが言う。白い歯が眩しい好青年風で、戦闘になればバーサーカーのようになるのが、現状からは想像もつかない。
「やっと終戦ね。実質終戦みたいなものだったけど、停戦だったのね。忘れてたわ」
蒼炎の魔女メイが感慨深げに言う。これは、地球での朝鮮半島に対する多くの人の感想と似たようなものだろうか。
「うまくまとまればいいんだがな」
そう、巨人ガイが考え込むようにして言う。
「フン。上手く停戦で儲けていた野郎どもがごねるんだろうな。ぶっとばしてやりてえな」
人形師コーエンはそう言いながら、続々と到着するラドライエ大陸側の出席者を睨むように見る。
コーエンは世紀末風の衣装を着ている見た目は怖そうな青年だが、誰よりも子供好きな、本当は優しい人間だ。
尤もそう言えば、照れて怒るが。
一人分は空席となっているが、僕と幹彦を含めたこの六人が七大冒険者だ。
「お久しぶりです。
そうですね。早く、上手く会議がまとまってくれればいいですね」
そう言って、僕たちは頷きあいながら、傍らの人物たちを見た。会議に参加しにきたメンバーの中の数人が、なぜか雑談に加わっている。
虎人族の族長の護衛に付いてきた、以前虎人族の集落に案内してくれた狩人。それに、真エルフの次期族長の護衛として付いてきた、やや脳筋気味のポンコツエルフ、エラリイだ。
「なんでここにいるんだ」
チビが訊くと、二人は異口同音に、
「同じ話ばかりで長くて退屈で」
「話し合いは族長や連合の議長がするしなあ」
と訴える。
「会議ってのは、ね」
わからなくもない。
「だから、模擬戦をしよう」
ワクワクしながらエラリイが言うと、虎人族のサムも楽しそうに拳をこする。
「お、いいな。勝ち抜けか。総当たりか」
それに、コーエンやクリルが楽しそうに肩を回したりし始め、メイとガイが嘆息してそれを止めた。
「何考えてるの。やめなさい。もうすぐ終わるでしょう?」
「ええー。おんなじ事ばっかり言って反対する人がいるし、お互いに責めてばっかりで、堂々巡りですよ」
エラリイが肩を落としながらそう言う。
「戦争は、始めるのは簡単だが終わらせるのは難しいって、これかあ」
思わずそう呟いた。
「酒でも一緒に飲めばまとまるんじゃねえのか」
サムが言えば、
「いいや、模擬戦だ。剣を交えればわかり合えるはず」
とエラリイが力説する。
チビは嘆息し、幹彦は苦笑した。
「でも、反対してるって言っても、賠償とかそういうところで折り合わないからだろ。本当に戦闘をしたいやつなんているのか、人族には」
そうサムに訊かれ、僕たちは苦い笑みを浮かべた。
「いろんなバカやがめついやつがいるからな。面倒くせえ」
コーエンが吐き出すように言い、次いで、はっと緊張した。
他の皆も同じく緊張したように顔を引き締める。
「本当に襲撃しに来た?」
僕は「嘘だろう?」と思いながら言ったが、どうやら終戦に反対のグループが、会議場を襲撃に来たようだった。
「さあて。退屈してたんだ。暴れるか」
幹彦が首をコキリと鳴らして言うと、クリルが表情も雰囲気も一変させて、
「敵……敵……」
とぶつぶつ言い出した。怖い。
「客だ。お出迎えしてやらんとな。
ピーコ、ガン助、じい。運動の時間だぞ」
チビが伸びをして言うと、ピーコたちもどこかウキウキとしたように準備運動を始めた。
「すっかり皆やる気だねえ」
苦笑し、
「後のこともあるから、一応生かしておいてね」
と言っておいて、近付いて来るその気配に備えた。




