若隠居の会議の裏側(1)
ナッツを固めたシリアルバー、干し柿、うどん、けん玉、たこ焼きをペッチャンコにして焼いたペチャ焼き、クジラの竜田揚げ、小魚の南蛮漬け、カエルの置物、招き猫──。
「美味いな、これ!」
エインたちが声を上げる。
今日はエルゼのいつものメンバーを招いて、故郷から戻ってきたからお土産を渡すという理由で宴会をしていた。
「これなんだあ?」
怪訝そうに招き猫を見るのはオルゼとモルスさんだ。
「それは招き猫と言って、お客さんがたくさん来ますようにというお守りみたいなものだな」
「こっちは、無事に帰りますようにっていうお守りだよ」
カエルの置物を指して言うと、各々、しげしげとそれらを見る。
「縁起物か。やっぱり地域によって色んなものがあるんだなあ」
モルスさんは楽しそうに笑った。
「それより、思ったより早かったな、戻って来るの」
セブンは言いながら、焼酎を飲んで目をむいた。
「美味いな、これ!」
虎人族の集落でもらった、花の麹を使った酒だ。
「香りが良くて飲みやすいぞ。女にも受けそうだな、おい」
エスタも言い、各々、他の飲み物もちゃんぽんして試しだした。
「いやあ、途中でトゥリスに会って、運んでもらったしね」
そう言うと、トゥリスは口いっぱいにペチャ焼きを入れながら頷いた。
そういうことにしてあるのだ。
「これは武器か?」
けん玉を手に首を捻るのはオルゼだ。
そういうアニメもあった気がするな。科学を味方に付けた忍者グループの話だったな。
「それはおもちゃだよ。こうやって、球を皿に乗せたり、球の穴を、棒に……」
スカッ。
「こう」
スカッ。
「こう」
スカッ。
「こう!」
やっと入った。皿に乗せるのは割と簡単にできるけど、こっちは難しい。
「お、貸してみろよ」
ジラールがうずうずとしたように言ってチャレンジを始め、それで順番に、けん玉を始める。
孤児院の子供たちへのお土産だったのだが、意外と大人にも人気だ。
招き猫はモルスさんに、ほかの冒険者の皆とセブンにはカエルだ。
日本ももちろん大切だが、エルゼも同じくらい大切だ。凪王にも陰王にも、是非、がんばってもらいたいものだ。
けん玉に夢中な皆を見ながら、僕は心の中で会談の成功を祈った。
そんな風に宴会を楽しんで、留守の間の出来事などを聞いていた。
誰それが引退したとか、結婚したとか、振られたとか。どこのダンジョンで凄い武器が出たとか、なかなか見所のある新人が来たとか。
「そうそう。獣人との戦争だけどな。とうとう、終戦になるかも知れねえって話だな」
セブンが言った。
「やっとか!」
「停戦のまま長かったもんなあ」
オルゼとロイドがしみじみと言えば、モルスさんも頷いて言う。
「これで交流が再開されれば、物流が増えて、商売も活気づく」
「獣人か。昔はこっちの大陸にもいたらしいけど、今はいねえしな。見たことがねえな」
グレイが言うのに、皆頷く。
「凶暴って聞くけど、どうなのかな。まあ、負ける気はしねえけど」
ジラールが言うのに、モルスさんが笑って答える。
「人でも色々いるだろう? 同じだよ。穏やかな獣人もいれば、けんか腰なのもいるだろう」
それで僕は、ラドライエ大陸で出会った色んな獣人たちを思い出した。
確かに、色々だった。
「じゃあ、同じか」
エスタが言うのに、ロイドが頷いて同意する。
「そうだな。俺たち人間だってそうだろ。何国はどうとかいっても、悪いやつもいればいいやつもいる」
それにセブンもしみじみと頷く。
元騎士のロイドや兵士のセブンならではの経験があるのだろう。
「終戦協定に向けての会談をするらしいが、大方のやつは賛成だろうが、中には反対のやつもいる。で、そういうやつらが何かしでかさないように気をつけろってお達しが回ってきたぜ。冒険者ギルドにも知らせがいってるはずだから、怪しい集団を見かけたら、頼むぜ」
「ああ。反対派が人質をとったりして抗議活動をしたら大変だもんな。任せろ」
幹彦が言い、エインたちも「おう」と請け負う。
テロ、許すまじ。
それで何度目かわからない乾杯をして、宴会は続いた。




