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若隠居のススメ~ペットと家庭菜園で気ままなのんびり生活。の、はず  作者: JUN


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明けの星

 男達は、古い傷だらけの防具を着け、腰に下げた剣に手をかけていた。

「新人だろう。先輩として色々と教えてやるぜ」

 どうも、ギルドにいたらしい。

「幹彦。これはまさか優しい親切な先輩?」

「カツアゲか強盗だろ」

 言いながら幹彦も刀の柄に手をかける。

「どこにでもいるんだなあ」

 言って嘆息している間にも、彼らはゆっくりと近付いて来る。

「兄ちゃん達。まずは有り金を全部出しな」

「言う事を聞けば、ケガはしないで済むぜぇ」

 そう言い、とうとう剣を抜いた。

 幹彦は目を細め、刀を抜いて返した。峰打ちで済ます気らしい。

「消えろ」

 幹彦が言うのに、彼らは薄笑いを浮かべた。

「しかたねえな。じゃあ、まずは最初に、『先輩の言う事には絶対服従しましょう』」

 ギャハハと笑いながら、剣を振り上げて襲い掛かって来る。それに対して幹彦は、スッと静かに半歩進み出た。それで、その男は崩れ落ちた。

 幹彦の剣技は、とてもきれいだ。流れるように、しなやかに、舞うように。

 こうなる事はわかっていたから、僕は後ろでのんびりとしているし、チビも丸くなって欠伸をしていた。

「な、この野郎!」

 残りが激昂し、剣を握って突っ込んで来る。

 その中をスイと泳ぐように幹彦は動き、刀を振るった。

「これに懲りたら、二度とこんな真似するなよ。先輩」

 幹彦は瞬く間に彼らを打ち据えて地面に引き倒し、不満の残る顔付きで刀を収めた。

「はあ。一応警察に言う方が──いや、警察ってないよな」

「ギルドの人に言っておくか」

「そうしよう」

 僕達は唸って起き上がれない彼らに背を向け、ギルドに報告すべく歩き出した。

 その背後で、魔力が動いた。

「ん?」

 振り返った僕は、中の1人が、地面に這いつく張ったまま構えた両手の中に火の球を作り出すのを見た。

「へへ。この距離ならいくら低級の魔術でも無事じゃ済まねえぜ!ザマア見ろ!」

 驚きに僕は唖然としていた。何てしょぼい火の球だ!

 しかしその僕達の目の前に、いきなり土の壁ができた。

「大丈夫か!?」

 声は背後の大通りの方からした。男3人組が立っており、中の1人が片手を前に突き出していた。この彼が、土の壁を魔術で作ったのだろう。

「敵、じゃなさそうだな」

 幹彦がぼそりと小さな声で言う。

 その3人も同じく冒険者なのだろう。3人共使い込んだような防具を着け、所々に返り血らしきものが見える。年齢は全員、20代半ば頃だろうか。

 土の壁を作った男は、弓を肩にかけて、呆れたような顔付きをしている。

 剣を腰に差した男は、いかにも怒っているという顔付きだ。

 大きな盾を背負った男は、顔をしかめ、

「お前らか……」

と言って溜め息をついた。

「噂は聞いていたが、本当だったんだな。これはれっきとした犯罪だぞ。衛兵に引き渡すから、観念するんだな」

 剣を差した男が吐き出すように言って、背負っていた袋からロープを取り出す。

「ギルドに突き出しとけばいいんじゃねえの?」

 面倒臭いというように弓使いが言った時、土の壁はさらりと崩れ、剣を持った男はつかつかと倒れたままの男達の方へと歩いて行った。

「一緒に行って事情を説明してもらえるか」

 まあ、確かに当事者としてそれは必要だろう。

 幹彦もそう思ったらしく、軽く目を合わせると、

「勿論です。ありがとうございました」

と笑顔で答えた。

 襲って来た男達を盾の男と剣の男とで拘束して再びギルドへ戻ると、中にいた冒険者たちやカウンターの職員達は、「やっぱり」というような顔付きをした。

「明けの星だ。たまたま、こいつらがこの2人を襲おうとしている所に出くわした」

 それに職員は頷き、言った。

「ありがとうございます。

 まあ、新人で、金貨も持っていて、魔道具を持っているほどですから。危ないとは思ってたんですよね」

 じゃあ注意しろよ、と思ったのは僕だけでなく幹彦もだったようで、ムッとした顔をしていた。

 軽く事情を説明し、明けの星の3人が今日入手してきた獲物を売ると、まあ礼をという事で、隣に併設されているカフェ──ではないな。居酒屋に席を移した。

「あいつらは行き詰まって足踏みしてるやつらでな。新人を食い物にしているという噂はあったんだ。

 先輩が、デビューしたての子供の面倒を見るならともかく、カツアゲしてどうするんだ」

 盾の男、グレイがそう言って憤る。

「冒険者も玉石混淆だ。気を付けろよ。困ったときは俺達に相談してくれればいい。これも何かの縁だ」

 そう言って笑うのは、剣の男エインだ。

「はあ。助けるなら女の子でしょうが。何で男2人なわけ」

 弓の男、エスタがテーブルに肘をついて嘆息する。

「女好きもいい加減にしろよなあ、エスタ。あっちもこっちも声をかけて。そのうち刺されるぞ」

 エインが呆れたように言うと、エスタは、

「本望さ。

 女はいいよな。お前らだってそう思うよな」

とこちらに言って来たので、僕も幹彦もブンブンと顔を横に振った。

「いや、女はちょっと」

「うん。ちょっと、勘弁」

 それでエスタもエインもグレイも一瞬黙ってから笑顔を浮べた。

「人の好みもそれぞれだしな」

「ああ。俺達は違うけど、同性同士の婚姻も認められているしな」

「そうだ。いい友達になろうぜ」

 それで僕と幹彦もハッとした。

「そういう意味じゃねえよ」

「うん、違うから。男が好きなわけじゃないから」

 チビが呆れたように溜め息をついて、丸くなった。







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