若隠居と再びの北海道(1)
上機嫌でチビたちが走り回り、魔物を狩っていく。
「ううん。こっちが手を出す隙もないね」
僕と幹彦は苦笑いだ。
僕たちは北海道のダンジョンへ来ていた。僕と幹彦とチビは以前来たことがあったが、美味しいものが獲れるし、北海道名物の美味しいあれこれや景色の素晴らしさの話を聞いたピーコ、ガン助、じいが行きたいと言うので、再び行こうという話になったのだ。
前回同様、空港で精霊樹の枝を持つ幹彦を残して僕が家へ転移し、チビたちを連れて幹彦のところへ転移し、レンタカーでダンジョン近くのホテルを目指すという行程だ。
チビたちはどうしても飛行機だと客室に乗れないので、こういう方法をとった。
介助犬はともかくとして、それ以外の動物は特別な貨物という扱いで、預けることになるのだが、航空会社によって、鳥がだめだの亀はだめだの、犬の種類によってはダメだのと色々とある。預けられる航空会社を選んでも、その環境は動物にとってはかなりのストレスになると聞き、ズルイ手段だとはわかってはいるが、こういう方法をとった。
昼食の帯広豚丼も、おやつの洋菓子や果物も、チビたちは終始上機嫌だったが、ダンジョンに入ってもそれは続いた。
なぜなら、ここのダンジョンの魔物は、北海道ならではの美味しいものを残すからだ。
我が家の食いしん坊たちが、目の色を変えないわけがない。
「楽しそうで何よりだぜ」
幹彦が笑って見守る先で、チビたちは無事に大きな羊を瞬殺し、僕はせかすような目を向けられて、
「はいはい」
と慌てて、解体と収納をした。
「いやあ、いいダンジョンでやんすねえ」
「うむ! 山の物も海の物もあるしな!」
「最高ー!」
「いい昆布も欲しいの。最高の出汁がとれそうな昆布」
「見つけたらちゃんと狩るぞ」
チビたちは楽しげに話していたが、ほかの探索者の姿が見えると、
「わんわん!」
「チチチッ!」
と適当に鳴いて、「先に進むぞ」と視線で僕と幹彦に言う。
「ようし、次に行くぜ!」
幹彦が言って、僕たちは先へと進んだ。
ピーコたちも興味を持っていたので一階からのスタートにしたが、終始テンションの高さと比例している戦闘力の高さをピーコたちは見せつけ、僕たちは翌々日には前回来たときの最終階に辿り着いていた。
食欲、恐るべし……。
そこからは僕も幹彦も加わって存分に狩って回り、どうも再び一番先頭になったようだった。
というのも、極寒のステージが来たと思えば次は真夏だったり、海装備がいると思えば次は山装備がいったり、とにかく気まぐれというか、コロコロとステージが変わる。
僕たちの服、防具には気温に対応できる機能が付いているが、普通の地球人の防具ではそれはまだ無理だ。なのでマジックバッグを持っていない普通の探索者は、そのたびに一度ダンジョンの外に出て防具や武器を変えて再びダンジョンへ入場するという手間が必要になる。マジックバッグを持っていたとしても、安全地帯まで戻って着替えるという手間が必要だ。
ガマンや根性でどうにかなるものではない。動きは鈍るし、集中力も落ちる。何より、血管に負荷がかかって心筋梗塞や脳梗塞などを起こす危険性もあるため、面倒でもそうせざるを得ないのだ。
それはまるで、ダンジョンの嫌がらせのようにも思える。
それが僕たちが素早く進める理由で、ここの攻略が思ったよりも進まない原因のひとつだ。
「おお、黄金のヒツジだぜ。凄えな」
「絶対に美味しいだろ、これ」
僕と幹彦がやや興奮しつつ言うのに、チビたちも興奮して答える。
「毛皮と角もきれいね」
「腿のこの弾力! いいでやんすねえ」
「あばら付近は、良い具合に脂がのっておるぞ」
「これは、想像するだけで腹が鳴りそうだの」
素早く解体したものを眺めて、そんなことを言いながら肉用の収納バッグにしまっていく。肉はすぐに冷やした方が美味しいので、肉は冷蔵機能を付けた専用収納バッグを使用するのだ。
そうして、ダンジョン内でも使えるゼンマイ式の時計を見た。
「夕方までまだ少しあるな。
ボスを倒したからここも安全地帯になったし、ちょっとおやつにしようか」
チビたちは尻尾を振って賛成した。
「今日のおやつは何だ?」
「そうだなあ。クレープはどうだ? ここで採った果物を載せて」
言うと、幹彦がはいはいはいと手を上げた。
「俺、アイスクリームも載せたい!」
それにチビたちも、
「ばにらあいすがいいぞ!」
「抹茶がいいでやんす!」
「生クリームも美味しい!」
「わし、チョコがいいのう」
と口々に言い出す。
「はいはい。順番にな」
言いながら、既に焼いてストックしてあったクレープ生地に、各々のリクエストに応じて、果物、生クリーム、アイスクリームを盛って巻いていく。
と、不意にチビと幹彦が真面目な顔付きで背後を振り返り、僕も何事かと後ろを向くと、女性二人がこちらを──正確にはクレープをじっと凝視していたのだった。




