若隠居と殺人蝶(3)
アゲハの三人はいくらか魔物を狩って魔石を拾うと、階段の手前のちょっとした安全地帯で、休むことにした。
「ドロップ品も出ねえし、カモは見つかんねえし、ついてねえな」
リーダーのクロウが舌打ちをして言う。元半グレメンバーだが、少しばかり火の攻撃魔術が使えることがわかって探索者になった。武器は身の丈ほどもある大剣で、そこそこ強い。クロウというのは本名の烏山丈志からついたものだ。
「ここも潮時かな。というより、手口が広まっているみたいだな。新しい手口を考えないと」
そう言って考えるのは、ジョウ。チームの頭脳係というところで、見た目はいつもにこにことしていて人当たりも顔もいいが、そうは見えないのを利用して、影でいじめや恐喝を主導していた。また次々と女子と関係を持ち、飽きたらほかの男に回したり、ごねた女子は表に出せない写真などで黙らせてきた卑劣な男だ。武器は剣を使うが、盾の魔術と風の魔術を使える。クロウの幼なじみ、いわゆる子供の頃からの悪友だ。
「もっと遠くに河岸を変えるとか? 九州とか、沖縄とか」
そうウキウキと言うのは、マサ。短剣使いで、明るいムードメイカーという役割だ。半グレ時代はクロウの腰巾着で、クロウとジョウが探索者になるというので、一緒に探索者になった。
三人はこれまで、バレないように他人をうまく利用してやってきた。
しかし、誰かを囮にしたり強敵と戦わせて漁夫の利を得るやり方が疑われているらしく、この関東地区では、警戒されているのか全くうまくいっていなかった。
その証拠なのか、ここに足を踏み入れたチームが、アゲハの三人が休憩しているのをみると、避けるように先へと進んでいったのだ。
「ソロの女、いねえのか」
クロウが言って辺りを見回した時、今し方来た階段の影に、女性四人のチームがこちらを伺うようにして立っているのを見つけた。
「あれ、落として来いよ、ジョウ。マサでもいいや」
そんなクロウのセリフに、ジョウが嘆息して言った。
「覚えてないのか、クロウ。あれは以前、囮に使ったやつだ。生き延びたんだな」
「口封じしてねえのか」
「人嫌いでロクに他人と会話できない根暗女、しかも新人だったからな。俺たちの名前の方が上だし、問題ないと思ってな」
アゲハを見張ろうと追いかけてきたクローバーだったが、首尾良く見つけ、こうして見張っているところだった。
しかし、この会話を聞いて、恐怖がよみがえって震えていたビビアンも怒りが恐怖を上回り、震えは怒りのために変わった。
「み、見つかってしまったけど、どうしましょう!?」
マミーが慌てるが、怒りのボルテージが上がったビビアンと、正義感故に元々怒り狂っているヨッシーは、忠告も何もかも忘れて足を踏み出した。
「よくものうのうと、探索者を続けていられるわね。とぼけようったって、そうはいかないわ。私が証人になるもの」
ビビアンが言うと、アゲハの三人は顔を見合わせ、肩を竦めて笑い出した。
「自分が弱かっただけなのに。ヘッ」
クロウは口元でせせら笑う。
「逆恨みして他人のせいにするんじゃねえぞ、ゴラァ」
マサは凄んで見せる。
「怖かったんでしょうね。他人のせいにしたいというのはよくわかりますよ。
撤退の合図に遅れて取り残されたのはあなたなのにね」
ジョウはさげすむような目をしながら、同情するように言った。
それにクローバーの四人共が怒った。
「よくも……!」
「白々しい、卑怯者! そうでもしないと、あんたたちなんて全然攻略が進まないくせに!」
ヨッシーが言い返すと、今度はアゲハの三人が薄笑いを消した。
「……ピーチクパーチクとうるせえんだよ、メスが!」
クロウが言って指を突き出すと、ジョウが聞こえないほどの小声で詠唱を始める。
「言いがかりをつけてどうなるかわかってんだろうな、ええ!?訴えてもいいんだぜ、ゴラァ!」
マサは肩を怒らせて固まって立つクローバーに怒鳴りつけ、マミーは硬直したように震えた。
その怒鳴り声にかき消されて聞こえなかったが、ジョウとクロウの詠唱が蔭でなされ、クロウの指先でこぶし大の炎が生じ、それがジョウの送った風に増幅されて伸び、クローバーの四人を包み込んだ。
「キャアア!!」
炎はそう強くもなかったが、四人の周囲を取り巻くようにして燃え、それはマサが投げたタオルに燃え移って、四人の衣服に燃え移ろうとした。
「キャアア!!」
「ちょっと、何すんのよ!誰か!!」
慌てて火を消そうとするクローバーの四人は、アゲハに構う余裕もなくなって、アゲハの三人がとどめを刺そうとしていることに気付かないでいた。




