若隠居と殺人蝶(2)
「あれって、もしかして……」
雅彦さんから聞いたばかりの、疑惑のチームではないだろうか。
「ビビアン、あれってそうだよね」
声を潜めながらヨッシーが言うのに、ビビアンは青い顔を強ばらせながら頷いた。
「話したでしょう。新人探索者を、後からは動物も囮に使って捨てるやつら。『アゲハ』。探索者を辞めさせることはできなくて、追い出すのが精一杯だった」
ビビアンは震えているが、それがいかりのせいなのか恐怖のせいなのかは、判断がつかなかった。
「あいつら、勧誘してるんじゃない? まだ性懲りも無く!」
ヨッシーは怒りに拳を握りしめて押し殺した声を絞り出し、マミーとイズミはビビアンの背中をさすってなだめていた。
「ふうん。証拠不十分をいいことに、同じ手口を繰り返してきたんだね」
「大丈夫だぜ。ここでもあいつらの噂は流れてて、気をつけるようにって言われてるらしいからな」
言いながら、誘われていたらしい探索者が断るように手を振って離れていくのを見て、小さく安堵の息をついた。
アゲハの三人はそれを見送って、今回は仕方が無いと判断したのか、三人でダンジョンの入り口へと入っていった。
それでビビアンはやっと体の力が抜け、大きく深呼吸した。
「危ないまねはしないようにね。何をしてくるかわからないから」
「そうだぜ。協会だって流石にこのままにはしねえだろうし」
そう言って僕たちは別れた。
クローバーのメンバーは僕たちと別れてダンジョンへ入って行ったのを見たけど、大丈夫だろうか。まさかとは思うが、アゲハに噛みついたりしていないだろうな。
そう考えていたら、幹彦も同じ事を考えていたらしい。更衣室へと向かいながら、浮かない顔で背後の入場ゲートを振り返った。
「なあ、幹彦。ちょっと行ってみないか?」
言えば、苦笑を浮かべた。
「ああ。まさかとは思うけど、あいつらだからなあ」
チビも嘆息をして頷いた。
「中で姿を見れば、大人しくしていられるかは疑問だな」
ピーコとガン助とじいは直接は知らないものの、話は聞いて知っている。
「行ってみた方がいいでやんすね」
「後味がわるくなるもの」
「探そう、探そう」
それで僕と幹彦とチビは頷きあい、回れ右をして再びダンジョンに入場した。
クローバーは、ここが初めてだと言っていたので、一階から順番に駆け足で探しながら進む。一本道に近いところならまだしも、分岐の多いところでは困る。
顔見知りに会えば「こうこうこういうチームを見なかったか」と訊けるが、それでもなかなかクローバーには会えないでいた。女子四人組というのがそう珍しいものではないのも原因だ。
それでもここの低階層なら、僕たちが足を止めて相手をするほどの魔物は出ない。僕たちは急ぎ足で、クローバーが早まったことをしていないことを祈りつつ、先を急いだ。




