若隠居とビッグスライム(2)
ちょっと落ち着こう。
「核の位置がわかれば、まだやりようもあるんじゃないかな。
それよりも、このスライムの中にダンジョンコアがあるのかな?」
それに、全員がじっとスライムを見た。
「スライムがコアを取り込んだのか?」
チビが疑わしそうに言い、
「いや、それならその時点でダンジョン化は解けているんじゃないのか」
と自分で否定する。
「じゃあ、カイダリオがスライムの中にダンジョンコアを仕込んでいるとか?」
幹彦が言うのに、ピーコが、
「溶けないの?」
と首を傾げる。
わからん。
「そもそも。カイダリオはどこでこんなスライムを手に入れたんだろう。これって、たまたまの産物じゃなくて、カイダリオの計画の一部なのかな」
言うと、皆が考え込む。
「ここに私たちが辿り着いたのを見計らったように動き出したしな。自然発生ではないだろう。
カイダリオは、軍の兵士が、もっと言えばメトテラ王国の兵士がここに上陸したら全滅させようと目論んでダンジョン化計画を立てたんだろう。滅ぶ以前はメトテラ王国の領土だったらしいからな、この島は。ならば、ダンジョンコアを見つけて先に壊されれば困る。ならば、このスライムがカイダリオの用意したものであるというのならば、中にダンジョンコアを隠すのが一番安全だろうな。
まあ、その憎いメトテラ王国は滅んでいたんだがな」
「仕掛けの発動を待たずに滅んでいたんだ。皮肉な話だぜ」
話している間にも、スライムはプルプルとしながら少しずつ触れている地面を取り込んで大きくなりながら、どうにか動き出す隙を窺っているように見える。
「試しにちょっと探ってみるか」
言って、幹彦とチビはスライムを真剣な目でじっと凝視した。
そして、ほぼ同時に飛び上がる。
「大きな魔力の塊が二つあるぞ!」
「片方が核で片方がダンジョンコアだぜ!」
だとすれば、それを壊せばスライムもダンジョンも方が着くな。
そして、その方法をと考え、振り出しに戻る。
「やっぱり、フミオの全力ビームが一番じゃないか。その際、打ち込む場所を私が凍らせば威力は保てるんじゃないか」
チビが考えながら言い、僕も考えてみた。
「そう言えば、全力のビームはやったことがないしな。やってみるか」
作戦その二が決まった。
「核とコアの位置ってどこ?」
訊くと、それもそうだと幹彦が頷いた。それで、チビが表面を浅く凍らせ、幹彦がビームを打ち込む位置にマジックで印を付けた。収納バッグに色んなものを入れていてよかった。
それが済むと、幹彦たちは少し離れ、まずチビがスライムを凍らせていく。凍ってもスライムが内部から溶かそうとするのでイタチゴッコでしかないが、元々凍らせて倒すのが目標ではないので、別に構わない。
魔術の威力を上げるブローチに魔力をかけ、収束魔術の威力を高めていくと、凍り付いたスライムの表皮に書かれたマジック目がけてそれを放つ。
眩しいとも、大音量に翻弄されたとも、何とも表現に困るものだった。
しばらくした後、体中の力が抜けたようなだるさと微かな頭痛がして、自分がぼんやりとした感じになった。
どうなったのかとスライムを見ると、地面を吸収して大きくなったスライムだが、相変わらず地面に張り付いたような形で広がっていたが、ぶるんと体を揺らすと、元に戻った。小さな穴が開いていたが、それも塞がってしまう。
「核とコアを内部で移動させたんだな、くそっ。弱点が動くってずるいな」
悔しがる幹彦だったが、僕はそれを見て考えていた。
「確かに、傷の修復が異常に早いからダメージを与えて核のある中心部まで到達させるのは難しいみたいだけど、一応中に攻撃は入ってるよな。
だったら、内部から攻撃すればどうにかなるかもしれないぞ」
チビが気付いたように言う。
「魔力弾か」
「ああ。あれを何発か打ち込んで内部の何カ所かから凍らせればどうだろう」
少し考えてみて、やってみようということになった。
それで、凍り付かせる術式を魔力弾で包んだものを適当にスライムに十発ほど打ち込んでみる。
着弾のたびにスライムはぶるるんと体を震わせていたが、弾はゆっくりと内部に取り込まれていく。
そしてスライムは、何事もなかったかのようにゆっくりと転がり始めた。
失敗だったかと落胆したとき、変化が起こった。スライムの透明な体が内部の数カ所から濁り始め、それが急速に広がっていき、あれよあれよという間に全体が濁って、動きも止まった。
チビが近付いて、表面をさっと爪の先で傷つける。
すると表面に線のような傷が残った。
「ミキヒコ、これで斬れるぞ!」
チビが言う通り、スライムはゼリーのような体を固く変え、その特質を失っているようだ。
幹彦は大股でスライムに近寄ると、スライムの体を大きく切り裂いた。
凍り付いて丸いオブジェのようになったスライムが両断され、見慣れた魔石とダンジョンコアが見えた。そしてわずかに残ったどろりとした体液があったが、幹彦が魔石を二つに斬ると、どろりと流れてただの水へと変わった。
残ったダンジョンコアも二つに斬ると、中から小さく簡素な笛が現れた。
「もしかして、故郷のものかな」
幹彦が言って持ち上げると、パキリと小さな音を立てて二つに割れた。




