若隠居と嵐の孤島(4)
僕たちの話を聞いた乗客たちは、驚きはしたが、腹をくくったらしい。
この船に乗るのはほぼ行商をしている商人か冒険者なので、どちらも、万が一のことは想定しているということのようだ。現代日本人には考えられないが、二百年程度遡れば旅行というのはそういうものとされていたのだ。何かあればすぐに連絡できたり、遠距離でも短時間で安全にできるのが当然という思いでいたが、それは恵まれたことだ。
それはともかく、コアを破壊しに行く人員を決めなければならない。
僕たちは旅の隠居を名乗っていたが、七大冒険者のうちの二人であるというのは、言われないまでもバレていた。チビたちを連れているのもあって、目立つらしい。
ほかの冒険者は、そこそこ強い者もいたが、チビが、
「船の周囲は安全地帯になってはいるようだが、その向こうにいる魔物を警戒しないわけにはいかんしな。それに、それを獲って食料にする必要もある」
というので、ここに残ることになった。
まあ僕たち以外がいると、連携だとか色々と面倒なことがあるので、いない方が気が楽だ。
「ふふん。私とピーコとガン助とじいもいるしな。心配はいらん」
チビが昂然と胸を張って言い、それで僕たちは早速山の中へ──いや、ダンジョンの先へと進むことになった。
水や食料を持って行くかと訊かれたが、断る。確かに試した結果、この島の外へは転移できなかった。なので、日本へ戻って料理をする、という手は使えない。それでも収納バッグや空間収納庫にはたくさんの食料があるし、現地調達という手もある。水も、魔力を込めれば湧き続ける水筒があるので、困ることはない。
テントや雨具だっていつも持っているし、準備に不足はない。
「じゃあ、行ってくるぜ」
僕たちは皆に見送られ、山の中に分け入った。
「しかし、カイダリオ? 彼の恨みも怒りも納得するけど、だからってこれはねえんじゃないかな」
幹彦は文句を言いながら、ブンブンと振り回されるトレントの枝を斬り飛ばした。
「一定以上の人数の船、ということは、兵士を乗せて運ぶのを想定していたんだろうけどね。もっと大型の客船だってできるかもしれないとか思わないのかな」
僕も言いながら、トレントを燃やし、飛んでくる実を叩き落とした。
チビたちもトレントを斬り、岩を叩きつけ、火で燃やして暴れている。
このダンジョンを進んで、今のところ出てきたのは、トレントや食虫植物などの植物系の魔物だった。まだ余裕がある。
もう動くものはないと確認して、転がった枝を拾い集める。薪にできるのはもちろん、太いところは木刀にも槍の柄にもなるし、幹だと家具や馬車の車体にもなる。
今回は薪にすることになるだろう。
「炭にしたら、備長炭を越えるらしいな」
幹彦が言うのに、ピーコが
「ヤキトリ、ヤキトリ!」
と騒いで、飛んでいたそこそこ大きい鳥の魔物を仕留めた。
これでヤキトリを食べたいということだろうか。
「流石はピーコでやんすね!」
ガン助が喜び、幹彦は苦笑を浮かべた。
「じゃあ、後何羽か追加でいるな」
そうやっていつも通りに、僕たちは気負うことなく、それでも少しだけ急いで、奥へと進んでいった。




