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若隠居のススメ~ペットと家庭菜園で気ままなのんびり生活。の、はず  作者: JUN


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若隠居と荒れる海(2)

 時ならぬボウフィッシュの大漁ゲットに、船の乗員乗客に、ボウフィッシュ料理が振る舞われた。

 こちらでは塩焼きや煮物、ソテーが一般的らしい。味噌汁や鍋物や刺し身やフライやムニエルは、持ち帰って家で作ろう。

 皆で傷む前に食べる分以外は、収納バッグなどがあって保存できる人で分けることになったのだ。

 僕たちが一部を開いて塩水で洗い、デッキに張ったロープに通して一夜干しを作り始めると、興味を持った人たちが教えて欲しいと言ってきたので、その人たちも一緒に作って、デッキは今、たくさんのボウフィッシュが天日干しにされて、漁船かというようなにおいがしている。

「これを炙って食べると美味しいんだよなあ」

「ああ、ビール、いや、焼酎飲みてえ」

 僕と幹彦がうっとりとしていると、チビたちはよだれをたらさんばかりになって、はためく魚を見ていた。

「襲撃が嬉しかったのは初めてだ。これならまた来てもらいたいもんだぜ」

 船長はそう言って、僕たちも一緒になって豪快に笑った。


 それがフラグになったのだとは思いたくはない。

 次の襲撃は、乾燥させたボウフィッシュの一夜干しを取り込んだ直後に来た。

「何だあれは!?」

 突然現れた小島に、乗客が目を丸くした。

「クジラだ!」

 船員が緊張して言った。

「クジラかあ。ホエールウォッチングとか人気だよな」

「そうらしいね。僕は見たことはないんだけど」

 僕と幹彦は呑気に言いながら、クジラが少し離れたところに背を海面に出すのを眺めていた。

「あれは食えんのか」

 チビが興味津々に訊く。

「数が増えてきた種類のものは、刺し身や竜田揚げや鍋にしたりして食べるよ」

 僕が言うと、幹彦も続ける。

「ほかに、ひげや油を使ったりな」

 それで僕たちはホエールウォッチングとしゃれ込んでいたのだが、クジラがこちらに近付いて来ているらしいことにチビと幹彦が気付き、それどころじゃなくなった。

「そう言えば、クジラに衝突して転覆する事故が地球でも多発しているとか……」

 思い出した。

「やばいんじゃねえのか」

 幹彦も顔を引きつらせてクジラを見る。

 こんな船がクジラにぶつかったら、ひとたまりもないだろう。

「それにしても、あいつもこの船を狙ってきているようだな。

 まさかとは思うが、あの人魚ども、懲りていないのではないだろうな」

 チビが低い声で言い、僕も幹彦も真顔でクジラを睨んだ。ピーコとガン助とじいも、殺気を漂わせてクジラを見ている。

「氷で追い払う程度でいいかと思ったが、そうとなれば話は別だ。フミオ」

 チビが言うのに、頷く。

「任せて」

 海面に顔を出す度にグングンと近付いて来るクジラに、歓声を上げていた乗客たちも、今は不安の声を上げ始めている。

「よし、いくぞ」

 僕は、クジラが顔を出すタイミングを見計らって、その魔術弾を放った。

 それはクジラに飛んで行き、頭に着弾した。傷は小さく、肉眼では見えないくらいだ。しかしそこから内部に潜り込んでいくと、冷却を開始する。

 素早く、脳、血液と冷却を開始し、クジラが内部から凍り付いて冷凍クジラになるのに、そう時間はかからなかった。

 それを見届けると、魔術で飛んでクジラまで行き、クジラを空間収納庫に収納して船に戻る。

「どうせなら美味しくいただかないとね」

 笑うと、幹彦も笑って海に向かって言った。

「そうだな。何度来ても返り討ちにして、端から食ってやるだけだぜ」

 水面にわずかに映った魚にしては大きい影が、逃げるようにして深いところへ潜って行った。

 どうも、人魚で決まりらしい。

「まだ来るかな」

 言うと、チビが憤然と胸を張る。

「返り討ちにしてやるだけだ。

 で、それはどうやって食う」

 それに幹彦は笑った。

「流石にここじゃ狭くて出せねえだろう。捌いて食うのは、船を下りてからだな」

 僕たちは不敵に笑いながら海を眺め、心の中でクジラ料理に思いをはせていた。




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挿絵(By みてみん)

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