表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若隠居のススメ~ペットと家庭菜園で気ままなのんびり生活。の、はず  作者: JUN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/548

まずは入会

 都心のど真ん中とは言えないが、観光地の大通り程度には人通りがあった。

「ここが異世界か」

 ポツンと小声で呟く幹彦に、チビが訂正を入れる。

「正確には、その中のマルメラ王国キルジイラ領のキルジス州エルゼだな。ダンジョンに近いし魔物が巣くう魔の森にも近いから、冒険者の多い街になっている」

 僕達は初め、チビに連れられてこちらの精霊樹のあるところに行った。

 ところがそこは、ほかに何も住まない、人が辿り着くのさえ困難な僻地で、街はおろか村にも遠かった。

 そこで、主な教会にあるという精霊樹の枝の周囲に転移する事にしたのだが、大抵は人目の多い場所に枝があり、転移すれば嫌でも目立つ。その中でここだけは、精霊樹の枝の下の地下部分を真っ暗な廊下にし、あの世から再び生まれるまでに見立てていた。長野県の善光寺の胎内巡りみたいなものだろうか。ここなら真っ暗で転移は見られないし、「あれ?入る前にこの人が前だったっけ」という顔をされても、暗い地下で順番が入れ替わったのだと当たり前の顔をしていれば、どうという事は無い。

 なので、今後も異世界側の出入り口はここにしようと決まった。

 アスファルトもビルも、自動車も自転車すらも見当たらない。馬車が走っている。道路は土かレンガか石畳のようで、建物は木造か石造り。住民の服装は、色やデザインが地味なカジュアル服とでも思えば、そう違和感がない。ただ、靴は革が普通らしい。

 冒険者と思われる人はその上に防具を着けたり、武具を所持しているが、デザインにそう変わった点はなさそうだ。

「時代が戻ったみたいだな──知らないけど」

 幹彦が目をキラキラさせて言う。

「ああ。それに服装は確かにこれで何とか誤魔化せそうだな」

 言うと、子犬のフリをしているチビが、

「防具や武器は、多少変わっていても魔物を加工したものかと思われるだけだから心配ない」

と請け負う。

「まずは早速、ギルドに行って登録しようぜ」

「確かに、身分証は必要だな」

 連れ立って、剣と盾がデザインされた看板がかかる冒険者ギルドを探す事にした。

 探しながら歩いていると、道の両サイドに並ぶ色んな店で、買い物客や店員がやりとりをしているのが見えた。

 すぐそばで女性がバゲットを1本買おうとしていたのでさり気なく近寄って横目で見ると、受け取り、店員に茶色い貨幣を渡している。

 その先では、子供が白い貨幣を店先の飴玉と交換していた。

 白いのが10円玉、茶色いのが100円玉ってところか。そう予測すると、この上にもまだ、何種類かの貨幣が存在している筈だ。

 なおも歩いていると、剣と盾のイラストの看板がかけられた建物が出て来た。

「そこが冒険者ギルドだ」

 小声でチビが言う。

「身元保証者がいない場合は、登録料がそこそこかかる。魔石を8つほど売っておけ」

「保証人かあ。確かに、身元がはっきりしない人間に身分証明証を出すんだから、おかしな奴にギルドに入られちゃあ困るって事だろうな」

 言うと、幹彦は首を傾けた。

「マンガでは、犯罪の有無がわかる魔道具なんてものが大抵出て来るんだけど?」

「そんなものはない」

「犯罪の種類とか時期とかも指定しないと大変だろうからなあ。もう刑期を終了したものとか、ポイ捨てとかの軽犯罪も含まれそうだし」

 それで幹彦は苦笑し、

「ま、そういう事だろうな」

と言って、ドアを開いた。

 どこかに似ていた。

「あ。郵便局」

 幹彦もポンと手を打つ。

「それも小さいやつな!」

 カウンターがあり、いくつかある窓口に職員が座っている。そしてその前に冒険者と思しき人たちが並んでいた。順番を待つチケットとか札とかは無いらしい。

 壁にはたくさんの紙が貼ってあり、冒険者たちがそれを眺めている。

 カウンターの窓口に目を戻すと、若い女性の所は列が長く、男の所は短い。僕も幹彦も、男のところでいいので、願ったりかなったりだ。

 その中でも、端のひとつが全く誰も並んでいない。よく見ると、「案内・登録」という札が出ていた。

「あそこか」

 幹彦が嬉しそうに言って、咳払いをひとつし、近付いて行った。僕は幹彦の後ろからついて行く。

 そこでようやく気付いた。

「なんで日本語が通じるんだ?」

「あ……そうか、あれだ。大抵こういう時って、言語理解とかいう感じの奴があることになっているぞ、史緒」

 それはマンガだろうに。

 するとチビがこそっと言う。

「私の関係者特典みたいなものだろう」

「ああ、そういう」

 ありがたい。

 僕と幹彦は納得し、窓口に近付いて行った。





 

 






お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ