探索開始
チビの指導のもと、色んな技能を発現させる事には成功したが、面倒を避けるためにもバレないようにしてダンジョンへ通い始めた。
ダンジョンに入ったという証拠が無ければ、魔石その他を売る事ができない。なので、普通に自動車で行って、免許証を提示してダンジョンへ入場した。
時々顔なじみの同期生にも会うが、お互いに会釈してすれ違う──猟犬には怯えられたり吠えられたりするが。
そして早々に、実習で使ったチュートリアルフロアとでもいうべき1階を抜け、2階に進む。
「わあ。ここ、野草が生えてるよ。
これ、元気草に似てるけど少し違う……わ、ある程度のケガの回復効果がある野草だぞ。これ、家庭菜園に移植しよう!」
僕はいそいそとその植物を根から掘り起こし、袋に入れて、こそっと空間収納庫にしまった。
「元気草って、本当に体力回復効果があったんだもんなあ。栄養ドリンクより効くもんな」
幹彦もしげしげと植物を眺めた。
技能というのはアバウトなのか、観察というのは鑑定のことであるらしく、そのおかげで、元気草と呼んでいた植物が体力回復効果のある成分を含むもので、回復ポーションの材料だとわかった。
今見付けたのは治癒の効果のある成分を含むもので、治癒ポーションの材料だ。
ダンジョンに生えている治癒草、または魔物が落とすポーションだが、ある程度のケガの治癒は可能だが、四肢の欠損や病気には効果が認められないと分かっている。それでも、聴力や視力の回復、火傷などのケロイドの治療には効果があり、高額での取引と保険適応外での治療が行われ始めている。その順番が回って来ない人の中で資産に余裕がある人は、お守り代わりに持っている探索者に個人的に商談を持ちかけたり、入手を依頼したりするそうだが、その金額はかなりのものらしい。
まあ、まだ日本人探索者は、治癒ポーションを落とす魔物が出るところまで至っていないので、個人的依頼は海外の話ではあるし、人工的に治癒草からポーションを制作できるようになれば、価格は安定するだろう。
まだ一定レベルのポーションを制作する事ができないでいるが、各種薬草の買い取り価格は高い。化学薬品からの合成ができない以上、必ず必要とされるものだ。これは安全で安定的な収入源として、優秀な産出物である。
「草もいいが、お客さんだぞ」
チビが、人がいない事を確認して喋った。
見ると、豚のような何かが先の方に現れていた。
「イノシシだって、幹彦」
「ボタンか!」
「いや、お前達」
「わかってるよ。食用も基本ドロップ待ち、だろう?」
ダンジョンで魔物を討伐し、そのままにしておくと、魔石や、場合によっては何らかのドロップ品を残して消える。ドロップ品も有用なので、食肉はドロップしたものが基本で、どうしてもの時だけ解体することにしたのだ。
「スピードが速いのと横にも曲がれるのに注意だぞ」
チビのありがたいアドバイスの途中で、イノシシは突っ込んで来る。
「早えよ!」
言いながら幹彦は当たる寸前で横にかわし、その瞬間に斬りつけた。イノシシの首元から肩にかけて傷が入る。 それでイノシシは怒ったのか、少し先で方向転換し、頭を低くしてより速いスピードで突っ込んで来た。幹彦はそれも軽やかにかわし、かわしざまに頸動脈に斬りつけた。
噴水のように血が吹き出し、そばの木や木の根元に生えている元気草などに降りかかる。
そしてイノシシはヨロヨロと向きを変え、幹彦を睨みつけ、バタンと倒れた。
「おお、やったな、幹彦。
こっちは出血性ショックによる心停止かな」
僕はそばに寄って行って、イノシシの絶命を確認した。
「フフン。でもまあ、これの切れ味が凄いぞ」
幹彦はサラディードをしげしげと眺め、嬉しそうに言う。
「さあ、何が出るかな」
ワクワクして見ている先で、イノシシの死体は煙のように形を崩し、魔石と座布団くらいの毛皮を残して消えた。
「毛皮だって。座布団カバー?かばんとか?」
フェイクファーじゃないと動物愛護団体に抗議される時代だ。本物の毛皮を何に使えというのだろう。
「まあ、フェイクファーのフリしたかばんとかじゃねえの?」
幹彦が首を傾けて言い、チビは、
「本末転倒だな」
と詰まらなさそうに言った。
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