若隠居のダンジョン法改正(4)
その翌日、気配察知を使ってマスコミの有無をみてから朝刊を取りに行った幹彦は、一面に踊る見出しに声を上げた。
「ダンジョン法改正、まとまったのか。まあ、選挙前に発表したかったんだろうな、野党のアジェンダに対抗するために」
その横で、チビたちがテレビの前で勢揃いしてテレビをつける。もうすぐ始まるNHKの『朝ヨガ』をチビたちは気に入って毎朝見ているのだ。見ながらやっている姿はものすごくおもしろい。
しかし今はまだその前の番組を放送していた。
首相がマイクの束を前に官邸で記者発表している最中だった。
『助けられる命を無碍にはできない。かといってポーションを寄越せというのは、それを命がけで取ってきた探索者の権利が阻害される。
ポーションを調合することができる人間を薬剤師の中から見つけているのが現状ですが、これからはもっと、一般人の希望者にも受験資格を与え、ポーションの数を増やすことも決定しました。
数が増えれば、AEDのようにたくさんの場所に備えておけますし、ここまで高額にもならないでしょう。
医療は、幸運な奇跡や財力で左右されるべきものではないのです』
皆でそれを見ていたが、チビは、
「昨日電話でフミオが言っていたことか」
と言い、ガン助が、
「パクってやんすね」
と言って、幹彦がたまらず吹きだした。
まあ、いいけどね。
画面はスタジオに変わり、アナウンサーがスタジオ内のフリップで説明を始めた。
それによると、今後は全てのドロップ品は一旦協会カウンターで申告することを義務付ける。
魔石は今まで通りに国が買い取るほか、ポーションは協会が買い取ることとする。ただし探索者本人がその一割をその価格で買い取ることができる、もしくは不測の事態に備えて持っておけることとし、この予備の数は階数によって今後協会と協議して決めることとする。ただし、探索中に使用しなければいけない事態に陥った場合はこの範疇ではないが、後で報告しなければならない。
食品も協会が買い取ることとするが、探索者本人が二割までを同じ価格で買い取ることができることとする。
剥ぎ取り品は探索者のものとし、不要なものを協会が買い取ることができる。
探索者が、同じ価格で持ち帰った食品やポーションを第三者に譲渡する場合、双方の氏名、理由を記して捺印をした書類を提出し、許可を得た上で、その分の税金を双方が支払わなければならない。
ポーションの使用は原則医師の診断の元に行われる。ただし、緊急事態はこれを除外する。
そのようなことが書かれており、それをアナウンサーが読み上げていく。
「つまり、剥ぎ取り品以外のものは全てを申告しなくてはならなくて、そのうちの食品の二割とポーションの一部だけは探索者が申告した上で持ち帰ることができるんだな。
それからお裾分けは、かなり面倒くさいみたいだよ」
要約してみれば、そういうことだ。
これで、一部の食品販売店や飲食店がしている探索者を使っての肉の仕入れなどができなくなり、ダンジョン産の食品を使いたければ、皆協会経由で買うことになるので、大きな店だけが有利になるということが防げる。
ポーションも、無駄に値段がつり上がることはなくなるだろう。
「まだ、これで全て解決とはいかないだろうけどな。まあ前進だぜ。
うちは肉はその場で解体できるから全部持ち帰りできるな」
それを聞いて、チビたちは安心したのか揃って尻尾を振っていた。
そのうちに番組が終わり、待望の『朝ヨガ』が始まったので、チビたちはテレビの前でポーズを取り始めた。




