若隠居の旅は道連れ(2)
少女はもの凄い勢いで食べ物を口に入れていく。チビたちもそれを唖然として見ているだけだった。
そして優に七人前ほど平らげたところで、ようやく少女は満足したようにスプーンを置いた。
「やっと落ち着いた」
少女はほっそりとしており、その体のどこにこれだけの食料が入ったのかわからない。謎だ。耳や尻尾はなく、僕たちと同じ人に見える。着ているものはどこか上品なひらひらとしたワンピースのようなもので、砂漠を歩く服装とは思えない。そして持ち物はなにもない。
無表情だが顔立ちは整っており、どこかいいところのお嬢さんが、はぐれて川に落ちて流されて来たのでは、と思われた。
「名前を訊いてもいいかな」
幹彦が訊くと、短く答える。
「トゥリス」
「川に落ちたのかな」
それにトゥリスは上を向き、考えてから言う。
「そうだった。お腹が空いていて、食べ物を見つけたから食べようとしたら失敗して川に落ちて、お腹が空きすぎて動けなくて、まあいいかって」
それに僕たちは全員絶句した。
「行き倒れでやんすか」
「お嬢さん、苦労したんじゃの」
ガン助とじいが気の毒そうに言うのに、チビが割って入った。
「待て待て待て。
おぬし、何者だ」
「トゥリス」
「そうじゃない。種族を訊いている」
「ああ。えっと、あなたたちの言葉で何て言うんだったか……」
言って、反対に質問してくる。
「それで、あなたたちは」
「ああ。俺は幹彦、こっちは史緒」
「旅の隠居で、冒険者もしてます。
で、こっちがチビ、ピーコ、ガン助、じい」
トゥリスはチビたちを順番に見た後、
「ただのフェンリルとフェニックスじゃないような気がするし、亀と貝にしてはちょっと知ってるのと違う」
と言う。
「ふん。私たちは神獣だ」
チビが胸を張り、トゥリスは頷いた。
「おお。納得した。
で、ミキヒコ、フミオ。旅の目的は何。いつまでするの」
僕と幹彦は顔を見合わせ、幹彦が答えた。
「珍しい物を見たり食べたりするのが目的だぜ。期間は未定」
「なるほど。
よし、決めた。私も同行しよう」
無表情で決定したとばかりに言い、チビはまたも毛を逆立てた。
「勝手な事を言うやつだな」
トゥリスはそれに対してどう思ったのかは無表情でわからなかったが、怒ることもなく、
「それで次は何を食べる」
と訊いたのに、ガン助が答えた。
「砂漠のバラでやんすよ」
それを聞いたトゥリスは、ああ、と頷いた。
「あれか。あれはなかなか見つからないぞ。私は咲いていた場所を見つけたばかりだけど」
それに僕たちは色めき立った。
「そんなに見つけにくいものですか」
「ああ。何せ数が少ない上に、咲くのは百年に一度。しかも花は、咲いてから丸一日でしぼんでしまう」
そうトゥリスが言うので、僕たちは素早く、同行を決めてしまっていたのだった。
「それで、まずはどこを目指す」
「この川沿いだ。
生で丸呑みしたことしかない。楽しみだな」
随分と豪快だな。
こうして旅の新メンバーが増えた。またも食いしん坊なのは、もう、しょうがないのかもしれないな。




