若隠居の大陸横断は牢からスタート(3)
昨日僕たちが牢に入れられてから、ミリたちは散々、犯人は別の人で自分たちは助けられてここに連れてきてもらったのだと言ったらしいが、特にアンリが信じなかったらしい。
それでシンが詰め所を抜け出して船長のところに駆け込み、船長はこの町の冒険者ギルドに行ったそうだ。
ギルドで話を聞いたギルドマスターは、その乗客が七大冒険者の魔王と舞刀だとすぐにわかり、慌ててペルルに知らせたらしい。
証人ならたくさんいるし、事件のあった時、被疑者である僕たちは海の上にいたのでアリバイもある。
それで慌てて憲兵隊の詰め所へ行ったのだが、アンリたちは、証人だけでは信用できない、物的証拠を出せと言って認めなかったという。
それでネクロマンサーが罠として使った檻になる魔道具の箱と恐怖で正気に返っていないネクロマンサーを憲兵隊の詰め所まで運んだが、ネクロマンサーが朝になるまで正気に返らなかったので、釈放が今になったらしい。
「ここの司法制度とかどうなってるんです?」
怒るよりも呆れてしまう。
「申し訳ない。獣人と人族の戦争は長い停戦に入っているが、終戦ではない。それ以上に、獣人が拉致されて人族の奴隷にされるという事件も起こっている。なかなか、難しいものです」
ペルルは嘆息して、苦笑を浮かべた。
「それでこの件を大きくされると、ますます獣人と人族との関係がこじれて、最悪では停戦協定すら破られることになりかねない」
そう言われると、
「もういいですよ。どこかに報告したりはしませんから」
と言わざるを得ない。
それを聞いてペルルは安堵の息をつき、頭を下げて、僕たちは詰め所を出ることになった。
外に出たところで、幹彦に向き直った。
「おつとめご苦労さんです」
同時に幹彦も言っており、プッと吹き出す。
「何だあ?」
船長とミリたちは怪訝な顔をしているが、
「あれだ。こういう時の、その、儀式?」
と幹彦が適当なことを言ったら、それで納得した。
「災難だったなあ。ここの憲兵、人族嫌いなやつらばっかりでなあ。こっちの話は聴かないし、こっちが何かしたら待ってましたとばかりに罰金やら刑の加算やらしてくるから。なるべく顔を合わせたくないんだよな」
それを聞いて、僕も幹彦も船長を睨んだ。
「こうなるのがわかってて僕たちに頼んだんですか」
「うわ、酷え」
それに船長は申し訳なさそうに笑って言い訳をした。
「すまんすまん。でも、昨日は積み荷を降ろして荷主に引き渡したり、帰りの船に乗せる分をチェックして乗せたりと忙しかったんでな。とてもそんな暇はねえ。
その分、依頼ってことで魔石は多く分けただろう? ちゃんとギルドマスターにも知らせて、助けに来ただろ」
しっかりしている。僕も幹彦も、ぐっと言葉を詰まらせた。
「まあいいや。人生初の体験だったし」
詳しい話をしようと、僕たちは港の中にあるこの船会社の事務所に移動した。
「ところで、固いパンは食ったのか」
ああ。日本で言う「臭い飯」というやつか。
「もの凄く固かったぜ。な」
「うん。釘が打てそうだったよ」
「ワン」
「人族と獣人の戦いは長期の停戦中ってことだから、特に人族が来るこんな港には、人族に厳しいやつらが憲兵として派遣されるらしくてな。人族にも獣人の子供や女を誘拐して奴隷として売り払うやつもいやがるから、余計に当たりが強い。
でも、この大陸のどこに行っても、多かれ少なかれこの傾向はあるぜ。人族との融和政策を唱える穏健派の種族はともかく、強硬派はああいう憲兵みたいなやつらばっかりだしな。中立派もいるが、こいつらは助けにならねえ。
大丈夫か。それでもラドライエ大陸に入っていくつもりか?」
船長は心配そうに訊く。
「どうにかなるさ。
それよりも、お前ら村までちゃんと帰れるのか?」
ミリたちは憲兵が送ってやるのかと思えば、村に知らせて迎えに来てもらうか、自分たちで村に帰るかしろと言われたらしい。予算や人手の都合なのだろうか。
アケはこっくりこっくりと始めていたが、ミリとシンは顔を見合わせ、真剣な顔で口を開いた。
「大人なら村まで歩いても帰れるけどボクたちには無理だって言われてるから、馬車に乗るしかないかなあ」
「けど、乗車賃がないんだ。貸してもらえたらありがたいんだけど」
「村まで来てくれたらちゃんと返すから」
今度は僕たちが顔を見合わせた。いちいち村まで取りに行くなんて、それこそ手間がかかりすぎて、最初から返してもらうことを諦めるのと同義だろう。
案の定、船長は無理だと即刻断った。
「どうする、史緒」
「別にいいけど、それならいっそ、一緒に行けばいいかな。
でも、また誘拐犯に間違われるかな」
「依頼書を書いてもらえばいいんじゃないか、ギルドで」
「なるほどね。それを見せれば大丈夫か」
冒険者ギルドがここにもあることは調べてきていた。
「依頼料は、獣人の種族のこととかこの大陸の事とかを教えてくれることでどうかな」
「お、それでいいぜ。どうせ大陸横断旅行するつもりだったんだしな」
それで話はまとまり、ミリたちと一緒にギルドへ出かけて依頼の手続きを行うことにした。




