正義の味方は隠居
思わず目をつぶった。ケンカしていたフッチーでも、やられる所なんて見たくはない。
しかし、いつまで経ってもフッチーの悲鳴は聞こえなかった。代わりに聞こえてきたのは、知らない人の声だった。
「間に合ったようだぜ」
目に飛び込んできたのは、男の子2人に薄笑いを浮かべて殴りかかろうとするゴブリンだった。
すぐさま幹彦がとびこむ。普通なら間に合わない距離だろうが、流石は剣聖。滑るようにして間に割り込み、先頭のゴブリンを切り飛ばしていた。
それでも目の前で人が生物を斬り殺したのだ。小学生には刺激が強いだろう。
「幹彦、凍らせることにしよう。流血は情操教育的に悪いと思う」
言い、残りのゴブリンを氷漬けにしてしまう。
そして、ほかに動くものがいなくなったのを確認してから小学生に振り返った。
「助けに来たんだけど、ケガはない?」
それに、マリンはわあわあと泣きだし、フッチーとシューマイは人形のようにこくこくと頷いて、シューマイが、
「あ。こけしは?足、掴まれて引きずられてたけど」
と言う。
こけしは立とうとして、座り込んだ。
「痛っ!」
視ると、軽い捻挫のようだ。
「捻挫だな。ちょっと待って」
収納空間からポーションを出して差し出す。
「これを飲んで」
小学生たちの目がポーションに釘付けになる。
が、こけしはすぐにそれを飲んだ。
足首を視ていると、治っていくのがわかった。
「よし、大丈夫だな」
言うと、今度はフッチーとシューマイがへたへたと座り込む。
「安心して腰が抜けたか?でもまだ早いぜ。ここを出てからにしないとな」
「ま、その前に親御さんには叱られるだろうけどね」
どうにか立ち上がり、幹彦を先頭にしてその後に子供たち、後ろに僕が、小学生の横にチビがついて歩き出す。
そのうち入り口が見え、外に出ると、子供たちは階段を駆け下りて親のところに飛び込んでいった。
無事を喜んで迎えられたのもつかの間、ゲンコツが落とされ、子供たちが頭を抑えてうめき声を上げたが、それも無事に生還できたからこそだ。
「間に合ってよかったよ」
言うと、チビは小声で、
「うむ。運はよかったようだな、あのちびすけども」
と言った。
じいとガン助はかばんの中から見ている。
「あとはここの報告をすればおしまいだな」
幹彦もほっとしたように言った。
ツチノコは見つからなかったが、代わりにできたてのダンジョンを発見してしまった子供たちは、ケロリとしてそれを自慢しているようだ。
僕たちは名前などを訊かれ、
「旅の隠居」
と答えておいた。
親たちが探索者に憧れてなりたいとか言い出されると困ると難色を示したからだが、名を名乗る気も元々なかった。
僕たちはまた車を運転して、家に帰った。
途中のサービスエリアで、チビたちとお土産を買ったり買い食いをしたのは言うまでも無い。
「今回はダンジョンに行く予定はなかったのに、そういう結果になったな」
「でもまあ、ゆっくりはできたし、この程度ならまた旅行に行ってもいいね」
「そうだな」
僕と幹彦が言っていると、チビたちがそれを聞きつけて会話に加わってきた。
「四万十川とやらにも行ってみたいぞ。鮎が美味いんだろう」
「私は軽井沢に行きたい!」
「オイラ、京都の映画村がいいっす!」
「わしは別府の地獄巡りかの」
それに僕と幹彦は呆れた。
「どこでそんな情報を仕入れるんだ?」
「テレビか?いや、ネットか?ネットを使いこなす犬とかインコとかカメとか貝とか、おかしいだろ」
「幹彦。おかしいのは今更だよ」
「……それもそうか」
「うん」
うちは今日も賑やかだ。




