行方不明の子供たち
翌日、朝から本館の大浴場と離れの温泉も楽しみ、朝からしっかりとした和食の朝食を堪能した。
「ああ、朝から腹いっぱいに食い過ぎた!」
幹彦が畳の上にひっくり返ると、同じようにチビとピーコもひっくり返った。ガン助はひっくり返ると自力で戻れないので自重したらしいし、じいは深めの皿に冷ました緑茶を入れて、そこにつかっている。
「今日は、海岸の松林を見て、チェックアウトしてから水族館に行こうか」
言うと、幹彦がむくりと起きる。
「そうそう。水族館、クラゲの展示とペンギンのパレードが有名らしいぜ」
「ペンギンか。毛皮の下は意外と筋肉質だと聞いたな」
それを聞いたチビがハンターのような目をして言う。
「チビ。捕まえたらダメだからね。
代わりに、ペンギンの形のビスケットがあるらしいから、それを買ってあげるよ」
チビは機嫌を直したように尻尾を振った。
「皆も何か欲しいものない?」
「オイラ、するめがいいっす」
「わしは温泉卵がいいのう」
「私、魚のビスケット!」
わいわいと欲しいものをねだる。
そのうち時間もいい感じになり、そろそろ行こうかと門の方へ歩いて行った。
が、必死な顔つきの地元の人らしい人が門の所にいるのを見かけた。
「遊びに行きそうな所は全部見たのにいないのよ。やっぱり……」
「ええ。海岸にあの子の名札が落ちていたし……」
「波にさらわれたんじゃないだろうな」
「漁協に言って、船を出してもらった方がいいんじゃないかしら」
それで、昨日の小学生を思い出した。
顔を見合わせ、幹彦が声をかけた。
「あの、失礼ですが。その中に、マリンというあだ名の女の子はいますか」
彼らはぎょっとしたように幹彦を見た。
「ええ、うちの子はそう呼ばれています。あの」
そこで幹彦が昨日聞いた話をすると、彼らは
「ああ」
と呻くように言った。
「間違いなく、うちの子たちだわ」
「海岸の階段って、昔作られて今は浸食されて使えない道でしょう?危ないって言ってるのに」
「役所に、削り取るとかしてもらおう。今度こそ」
「落ちてけがでもしたらどうするのかしら、もう」
一応そこらしいとわかって、安心するやら、新たな心配に気をもむやらというところだろう。
僕たちはこれから松林に行くと言うと、行き先は同じだからと、一緒に歩き出した。
砂浜に出ると風が強く、飛ぶ鳥も強風にあおられているようだった。
ピーコ、じい、ガン助は、お出かけの時用のバッグの中に入り、僕が肩から下げている。
「あそこです」
松林の手前で足を止める。切り立った崖のようになった山が海岸に迫っており、そこに途中まで細い手彫りのような階段が付いていた。
昔は下まで続いていたらしいが、風の浸食を受けて崩れてその長さだけ残っているそうだ。
しかし、僕たちが注意を引かれたのはそれじゃない。
「まずいな。あれ」
「ああ。ダンジョンができてるな」
階段の中程で、足を伸ばせば届く位置に穴があり、そこからおなじみの魔力の気配がしていた。
「ええっ!?」
子供の探検ごっこにしては危険な場所に、親たちは引きつった顔を青くした。
すぐにダンジョン庁に連絡を入れ、場所を告げる。
「中は未確認ですが、どうも地元の小学生が入ったようですので、これから救出に向かいます」
そう宣言し、さっさと電話は切ってしまう。
子供たちの親は、へたり込んで、穴を見ている。
「どうかお願いします!」
すがりつく気持ちはわかるが、入ってから時間も経っている。必ず助けるとは確約できない。
「行くぞ。中に入ったら気配を探ってくれ」
「おう、任せろ」
幹彦とチビは言って、それで僕たちは、小さな探検隊の救助のためにその未登録のダンジョンへと足を踏み入れた。




