引っ越しの御挨拶
引っ越し祝いに宴会をし、エイン達、ジラール、セブン、モルスさんと護衛のオルゼとロイドというメンバーを呼ぶ。
モルスさんは、商売の事でわからなければ何でも相談に乗るとニアに言ってくれ、しばらく、こちらの物価などもわからないだろうから店に研修にくればいいと言ってくれた。エインたちは店の事をギルドで宣伝すると言った。
「で、何を売るんだ。お前らがギルドに置いてたものか」
「ポーション、魔道具、武器だよな。
あと、保存食とかもいいかも」
言うと、マルが頷く。
「そうだな。私が取って来るから、それを干し肉にしよう」
するとサリが言う。
「お弁当は?」
キラもチビの背中を撫でていたが、それを聞いて目を輝かせる。
「そうね。そんな大したものはできないけど」
ニアが言うのに、エインが勢い込む。
「それはいい。昼飯にする多くは干し肉かドライフルーツやナッツだ。でも、こいつらが食ってるようなやつがあれば、俺なら買う」
「そうそう。食べやすくて、あんまり匂いがしないやつがいい」
「喉につまらないならもっといい」
グレイもエスタもそう続け、セブンも、
「門から近いしな。うちの連中も行くかも知れんな」
と言う。
ニアとマルがこちらに目を向けるので、言っておく。
「僕達が作ったものは、売り上げの4割をもらえばいいです。それ以外のものは、何を売ってもすべてあなた達のものにしてくれていいですよ。
商品のラインナップもそのための戦略ですからね。好きにしてください」
それにマルとニアは目を丸くし、オルゼは苦笑した。
「隠居は欲を持たず、か。
それより、一応領主様に報告した方がいいな。隣の国の事とは言え、問題だ。こちらにそいつらが入って来でもしたらことだし、警戒は必要だろう」
「明日にでも、マルさんを連れて領主の所に行った方がいい」
ロイドも言い、
「じゃあ、面会の申し込みをしておこう」
とモルスさんが締めくくった。
サリとキラはグレイにすっかり懐いて、グレイも嬉しそうだ。
できればほかの黒の人も助けられればいいが、そこまでは無理だ。
逃げて来てくれればいいのに。そんな風に思った。
翌日、マルと僕達は領主に面会し、隣国の黒の髪や目を持つ人の扱いについて報告し、黒攫いと呼ばれる誘拐集団がいると話した。
「奴隷にして、安い労働力にしているのか」
領主は眉を寄せて言うのに、マルは静かに首を振った。
「子供の前では言いませんでしたが、それだけではないのです。特に私の住んでいた領では、新兵の訓練に使うと噂で聞いています。その、殺した事がない新人に、罪人や黒の者を追いかけさせ、攻撃させて、慣れさせるそうです」
ギュッと握った拳が白い。聞いていた領主も、怒りを鎮めるかのように大きく深呼吸をして目を閉じた。
「そうか。酷い行いだな。人間の所業と思えない。
魔の森を挟んでいるとはいえ、こちらに人をさらいに来る危険性はあるな。十分注意しておかなければ。
よく話してくれた。この件は国にもすぐに報告しておこう。他国と連携して圧力をかければ、やめさせられるかもしれない。
ようこそ、エルゼへ。私達は君達を歓迎するよ」
領主はそう言って笑顔を浮べた。
雑用を片付けて過ごし、僕達は地下に戻って温泉に浸かっていた。ピーコ、ガン助、じいは池だ。
「これであとは、あの一家の手腕次第だな」
言うと、幹彦も肩をもみながら頷く。
「ああ。あの連中に紹介したんだ。何かあっても大丈夫だろうしな」
チビは頭を掻いて言う。
「しかし、マダルヤの人間は酷いな。狩りに慣れさせるのに、動物は狩りをさせるぞ。弱い同胞を使ったりしない」
「ああ。本当に頭に来るよな」
「全くだ。聞いた時は、王の所に脅しに行こうかと思ったくらいだぜ」
それに笑って乗る。
「いいね。
あ。王や貴族の頭や目を黒く変えてやるとか」
「お、いいな。王も黒の者の仲間入りだぜ」
笑ったが、ふと真顔になった。
どういう術式ならできるだろうか。
数日後、マダルヤの王族と貴族と裕福な商人の家族がそろって目の色が黒くなるという奇病にかかった。原因と治療法は不明で、しばらくしたら元に戻ったそうだ。




