隠居参上
森の浅い所で、見るからに「犯罪者」という感じの男達が5人、子供2人を面倒臭そうに追い詰めていた。
「手間、かけさせるんじゃねえよ、クソガキども」
中の1人がウンザリとしたように言うのを、樹の根元に追い詰められて抱き合った子供達はキッと睨みつけた。
「大人しくしろって」
「そうそう。俺達だって余計な運動して疲れたくねえんだよ。機嫌が悪くなってケガさせちまうかもしんねえぞ」
そう言ってわざとらしくナイフをちらつかせると、さざ波のように男達の間に笑いが起こった。
子供達は身を固くしながらも、助けが来ないかと祈るように視線をせわしなく方々に向けているが、そんな姿を男達がまたも嗤う。
「こんな所、誰も来やしねえって」
「そうそう。来たって、なあ」
「へへ。そういうこった」
男達は言いながら、ゆっくりと子供達に近寄って行く。
その彼らの体が、いきなり地面に叩きつけられた。
「うぎゃっ!」
「な、なんだこれ!?」
「た、立てねえ!」
地面に這いつくばってジタバタとするありさまは滑稽ではあったが、子供達もいきなりの事にあっけにとられ、呆然と男達を凝視しているだけだった。
そこに僕達は出て行く。
「誰も来ないって?」
「隠居参上!」
「ワン!」
「ピー!」
「か、カメー」
「カイー」
ガン助とじいは、無理があるぞ。
気を取り直し、重力を増やして抑えつけているところに近付いて、どう見ても悪者という男達を拘束していく。
「何しやがるんだ、てめえら!」
「ただで済むと思うなよ!」
男達が喚くが、そうだな。
「たしかにただじゃないだろうぜ。誘拐未遂犯を突き出せば報奨金が出るだろうし」
「わはは!ただじゃないね!」
僕と幹彦の軽口に、なぜか男達は余裕の表情を浮かべている。
どういう事かと顔を見合わせたが、まずはと子供たちに声をかけた。
「大丈夫か。家まで送ろう」
幹彦が笑いかける。
幹彦は初対面の人にもあまり警戒される事もなく、それが営業という職にも有利に働いていたところもあったのだが、子供達はどことなく緊張していた。
そして小さい方が恐る恐る口を開く。
「お兄ちゃん達、髪も目も黒いんだね。大丈夫?」
それを僕も幹彦も疑問に思ったが、親切にも男達がせせら笑いで答えてくれた。
「へへ。お前らも商品にしてやらあ」
「しっかり働かせてやるぜ、畜生が」
「金になるのはお前らだからな。フン!」
僕と幹彦は相談した。
「何かおかしいぞ」
「ああ。こいつらを突き出してもだめかもな」
「もう、この辺に転がしておく?チビ、まずいかな」
チビは周囲を眺め、
「構わんだろう。魔物に食われても知らんが、この辺にそういう魔物もいそうにないしな。残念だ」
と言った。
そこでうるさいので男達に睡眠の魔術をかけて眠らせ、ロープを回収してから僕達は子供を連れてその場を立ち去った。
「村はすぐそこだよ。
ぼくたち家族以外の黒の人って初めて見たなぁ」
「どっちも黒なんだなあ」
物珍しそうにこちらを見る子供達は、洗濯はしてあるが古そうな服を着ており、痩せていた。片方は黒髪に翠目、片方は茶髪に黒目をしていたが、髪は艶が無い。
あまり裕福な家の子ではなさそうだ。営利誘拐ではないと確信できる。
「黒って、髪と目の事か?」
幹彦が答え、チビが足元をトコトコと歩く。
「そうだよ。お父さんは髪が黒で、お母さんは目が黒なんだ」
「わあ。この犬真っ白!かわいいね!」
「ワン!」
子供とチビがじゃれ合うようにして歩いているうちに、その村が見えて来た。村に近付くにつれ、子供達は口をつぐみ、表情は硬く沈み、視線も下へ向く。
小さな集落で、木の柵で囲んであった。その中に村人がいるのが見えたが、どの人も子供達より新しそうな服を着ており、血色も体格も良さそうに見える。
そして、黒髪は見当たらなかった。
門というか扉を潜ると、番をしていた男がやや驚いたように言った。
「お前ら帰って来たのか。それに2人も増えて。
あ、いや」
目を逸らす。
僕と幹彦はその反応に顔を見合わせた。
どうも、嫌な予感がした。




