走る幼女の怪
更にしばらく進んでみたが、完全に水没している階に突き当り、ここから先は相応の装備の準備が必要だという事で、調査を切り上げる事にした。
そこからエルゼのギルドへ戻ってここまでの報告をする。
準備をして再度調査に行けと言うのかと思っていたが、これでいいらしい。調査と言っても、完全に調査し尽くすわけでなく、大体の舞台や魔物の強さなどがわかればいいそうで、途中から水中探査の準備が必要と分かった時点で完了だという。
宝箱の中身もそのままもらっていいというので、必要なもの以外を売る。
宝剣やマジックバッグ、高級ポーションも売ると言えば、オークションに出す方が値が上がるからと言われ、オークションの手続きをした。たわしや矢、安眠枕は、コメントがなかった。
例の籠手は幹彦が付けることにし、僕は石化反射と即死回避、人形の解析だ。
高位精霊で動かす人形。オートマタのようなものになるのだろうか。
ついでにいくらかこちらの気に入っているお菓子とパンを買って、戻る事にした。
「攻撃を反射する術式が組み込めればいいよなあ。それに即死回避は、コピーしたら役に立ちそうだし。
やっぱり幹彦はくじ運がいいし助かるよ」
「くじ運はいいんだよな、子供の頃から。
まあ、アイスの当たりが続きすぎて17個食べたら腹が冷えたのもいい思い出だぜ」
その後おばさんに嫌という程怒られて肝が冷えた。
「帰ったら温泉で汗を流すぞ」
チビがウキウキとして言えば、ピーコとガン助とじいは、
「水浴びするっす!」
「私も!」
「潜水じゃな」
とこちらも嬉しそうだ。
まあ、きれい好きでいい。
「風呂上がりに1杯いくか」
「いいね。ビールも枝豆も冷えてるし」
僕と幹彦もウキウキと予定を立てる。
そして地下室へと帰った。
攻撃を反射する術式はすぐにわかった。
即死を回避する術式は、まだ解析の必要がある。
そして人形だ。服を脱がせてみれば腹部にふたのようなものがあり、そこを開けると鶏卵2つ分くらいの窪みがあった。その周囲はゼリー状のもので覆われているが、これは全身を覆う筋肉の代用品と同じ物のように思える。
それを視てみると、ある樹の繊維を使ったもので、魔力の伝達がよく、弾力性に富み、丈夫だという。この筋肉の代用品を神経としても共用し、人形を動かすという仕組みなのだろう。
結局動かし方は、中に入った精霊が自分の体を動かすようにして動かすものらしく、高位精霊がなくてはただの人形でしかないようだ。
ならば、人形の骨格の材質はなんだろうかと考え、人形を解剖しようかと考え始めた時、精霊王がふわふわと飛んで来て、
「まあ」
と楽し気な声をあげるや、するりと窪みに収まった。
その途端、目がぱっちりと開く。髪と同じく、目も黒かった。
「まあ、まあ!」
楽しそうな声が無表情な整った顔からして、そのちぐはぐさに、現実味がなくなる。
人形は自分で立つと、歩き出し、スピードを上げるとスキップをした。そのすべてが無表情で、物凄く違和感を覚える。
「えっと、精霊王?」
人形は一周回って来たところで足を止め、優雅に淑女の礼をした。全裸だが。
「おもしろいですわ。たまに入ってもよろしいでしょうか」
「そ、そう?まあ、面白いなら別にいいよ。それよりも、とにかく服を着ようか」
死体が動き出したかのような恐ろしさというか、人形がひとりでに動き出したかのようなホラー感というか、そういうものもあるが、とにかく、全裸の幼女を前にしているのを見られるとまずい気がするし、人形とわかってもやっぱりまずい気がした。
「神谷さんに連絡しようぜ」
「そうだな」
僕はスマホを取り出しながら、普通の服も買いに行かないとだめなんだろうなあ、大きさとかどうしよう、パンツもいるよなあ、と考えていた。




