我が家の地下室は特別仕様
地下室の精霊たちは機嫌よく、遊びの延長でよく働いている。おかげで、実りは以前より輪をかけて良くなり、地下室はたまに確認しないと勝手に拡張されている。
まさかダンジョンとして復活したのではないかと慌てたが、そういう事ではないらしい。この地下室に神獣4体が全部そろい、精霊樹まであるので、環境が抜群に良く、それで精霊が活気づいているという事らしい。
ある日地盤沈下して家が傾くとか、よその家の地下に進出しているとかでないなら、まあいい事にしよう。
温泉は周囲を岩で囲んで露天風呂風にし、すのこと棚を置いてタオルや着替えを置けるようにもしてある。最近は異世界から帰って来るとそのまま温泉に入って、家にはその後入る。
薬草も入れれば、小さなケガは治るし、疲労も取れる。
「どんな地下室だ……」
担当官僚が言うのに、一応答える。
「うちの地下室は特別仕様なんですよ」
「そうそう。日々成長ってね」
「そんな地下室があってたまるか」
彼はそう言って、深い溜め息をついた。
この前知らせてから数日。今日改めて調査に入ったのだが、地下室は更に改築されていた。
神獣と精霊樹と精霊が僕達の側にあるので、「調査のために接収」とか言い出す事もなさそうだ。もし強引にそうされても、ほかの誰かが異世界へ行く事は出来ないし、精霊樹をほかに移す事もできないらしい。それにチビたちをモルモットにして調べたり実験したりする様子もない。
だから、幾分かは安心していた。
担当官僚は眼鏡を拭いてかけ直し、僕達に向き直った。
「ところで麻生さん、周川さん。ほかに何か言う事はありませんか」
担当官僚にじっと真顔で見つめられて、居心地が非情に悪い。本当は、僕達以外も行ったり来たりできるのかどうかなんて確認した事は無い。それも秘密だな。
「ほかですか?」
「何かあったかなあ」
僕達はそう言って斜め上を見た。
「合わないんですよね。持ち帰ったものや買ったもの、それで出来上がるはずの商品。これはどこからか材料を入手しているとしか思えない」
ぎくり。
「チビたちが、な」
「そうそう」
チビは半目で僕と幹彦を見ていたが何も言わず、ピーコとガン助とじいは池で遊んでいる。
「解体している部分だけを持ち帰って来るんですか。本当に」
チビはそう言ってじっと見つめられ、目を逸らして丸くなった。
「麻生さん、周川さん。ちょっと免許証の裏を見せてもらえませんか」
冷や汗がだらだらと流れる。都合よく指定部分だけを隠すとかいう機能はないのだ。「魔王」とか「舞刀」なんていうものが見られたら、申し開きができない。
担当官僚は、そこで少しだけ表情をやわらげた。
「悪いようにはしませんから」
僕と幹彦は白旗を揚げた。
「実は──」
全てを白状した。
担当官僚は黙って全てを聞き終わると、しばらく考えながら眼鏡を拭いていた。それを判決を待つ被告人の気分で見ていると、彼は眼鏡をかけて口を開いた。
「なるほど。ここに植えられている植物にしても、きっと異世界でしか知られていないものがあるんでしょうね」
僕も幹彦も居心地悪くその言葉を聞いている。
「あなた方以外には異世界へ行く事も、異世界から来る事もできない。間違いは無いですね。
この件は持ち帰って報告します。連絡がつくようにしていて下さい」
担当官僚はそう言って、思いついたように訊いた。
「そうだ。連絡先を登録しておいてください」
そう言って、強制的にスマホを出して登録される。
わあい。友達登録が増えたぞ。なんて喜ぶものか。
でも、彼の名前が神谷成博という事を初めて知った。
そうして神谷さんが帰って行くのを見送り、僕達は溜め息をついた。
「とうとうバレたな」
「まあ、時間の問題だった気もするぞ、フミオ、ミキヒコ」
「まあなあ。
まあ、なるようになるさ」
僕達は乾いた笑顔を浮べた。
神谷さんがその沙汰と今後の事を言うために再び来たのは、わずか翌日の事だった。




