人よりも人外の方が多く住む家
貝のフリをする貝の神獣を、ガン助が突き、ピーコが鷲掴みにして振った。
「わああ、何をするんじゃあ」
どうも年寄りみたいだ。
「チビ。神獣が魔力を与えると皆神獣になるのか」
訊くと、チビは首を横に振った。
「そんなわけがあるものか。
憶測だが、まず、元々魔力を持っていたか、魔力を保持できる体であること。その上で、神獣の魔力に耐えられ、保持できるだけの器であること。あと、相性か。
まあ、そもそも神獣というものが目の前で生まれるのを見る事がそうそうある事ではないからな。大抵は、気付いたら神獣になっていたというものだ。
私だって、向こうではただのフェンリルだった。こちらに世界がつながった時にここに引き込まれ、何が起こったのか考えていると自分がこちらの神獣になった事が理解できたのだ。
まあ、動揺している隙にスライムに呑み込まれそうになったのは一生の不覚だったがな」
精霊王も口を開く。
「精霊もそういう風に生まれます。突然存在しているのに気付き、そして、自分が精霊王、または精霊なのだと理解するのです」
「へえ。不思議な感じだなあ」
「もし人間も生まれた時にちゃんとした思考力を持っていたら、そういう感じなんだろうなあ」
僕と幹彦はそう言ってしみじみと頷いた。
だが、目の前の現象を、不思議で終わらせるわけにも行かない。
「名前だな。ええっと、おじいさんみたいだし、じいは」
「まあ、分かりやすいし呼びやすいな。
じい、それでいいか」
幹彦に呼ばれて、貝は少し口を開けた。
「じい!うむ、よかろう。確かにわしは年寄りだからの。ふふふ。あの河原で終わるかと思っていたが、これからは広い世界を見て回れそうだのう。いい冥途の土産になりそうじゃ」
貝も冥途に行くのか。
「じいは何か、特技はあるのかな」
「わしか。水を操ったり、アタックしたり、幻覚を見せたりだな」
表情は見えないが、得意そうにしている気がする。
「幻覚かあ」
「夢の中に閉じ込めるとかだな」
それで思い出した。
「蜃気楼か」
蜃と呼ばれる伝説上の生き物が幻を見せると考えられており、西遊記などでもその話が登場する。蜃は龍という説とハマグリという説があるが、どっちみち、伝説上の事だ。
まあ、この小さなイシガイはハマグリよりもずっと小さいが、二枚貝というところは同じだ。
「よろしくな」
幹彦はそう言い、
「あれ。じいも基本は魔力で、肉とか食うのか?」
と首を傾げた。
貝が肉を食べる所は見た事がない……。
でも、見回して思った。この家、人間は僕と幹彦の2人なのに、それ以外が多すぎるな。
まあ、いいや。
「一応報告して、従魔登録しておかないと。
あ。精霊王と精霊はどうしよう」
僕と幹彦は、どうしたものかと顔を見合わせた。




