地下室の異変
エルゼから地下室へ跳び、ん、と目を疑った。
精霊樹に光がともっていた。
「クリスマスには早いぞ」
「俺じゃねえぞ」
言いながら、電飾を外そうと近付いてよく見ると、光と光の間に線はなく、光はふわりと飛んだ。
「は?」
「光る埃か?」
僕と幹彦がそれを見ていると、チビがやや興奮したように言った。
「まさか精霊か!?この目で見られる日が来るとはな!」
それを聞いて、僕も幹彦もあんぐりと口を開けた。
「精霊?」
どう見ても光の球だ。色も様々で、それが精霊樹に何個も付いていた。
その中の1つが近くに寄って来て、周囲をくるくる回る。
「精霊……確か、世界に神獣が揃うと現れるんだったっけ」
以前確かチビがそう言ってたはずだ。
「じゃあ、神獣がこの世界に?」
幹彦が勢い込んで訊いた。4体目は何の動物だろう。
ピーコとガン助もソワソワとしている。
「精霊っすか。きれいでやんすね」
「色んな色があるー」
「神獣が世界に揃うと精霊王が生まれ、精霊王が生まれると精霊が生まれる」
チビが、精霊王を探すようにキョロキョロしながら言う。
「じゃあ、どこかに精霊王もいるんだな」
「そう言えば、禿山の岩陰に精霊王の亡骸を時間停止の魔術付きで安置してたな。あれは人の形をしてたよ」
そう言うと、幹彦もチビたちも忙しく視線をさ迷わせて精霊王を探し始めた。
と、精霊樹の一番高い辺りから何かがふわりと降りて来た。背中に羽がある小さい人型の生物だ。
「精霊王!?」
「おおー!」
僕と幹彦も驚いたが、チビも驚いている。精霊はチビが生まれた頃には絶滅していたらしいので、見た事が無いらしい。
精霊王はチビ、ピーコ、ガン助の前に来ると、優雅に一礼して見せた。
「神獣様に、ご挨拶させていただきます」
「うむ。精霊王か」
「はい。
あの、もうひと方の神獣様はこちらへはいらっしゃらないのですか。いつも気配だけでご挨拶が叶わないのですが」
それに僕達はしばし黙り込んだ。
「気配がするんですか」
「この近所か?」
「ダンジョン外に魔素が流出してはいるが、大した範囲でもないはずだしな」
僕、幹彦、チビが真面目な顔で考えている横で、ピーコとガン助が口を開いた。
「もしかして、あれじゃない?」
「ああ、あれっすかね」
全員の目がピーコとガン助に向いた。
「あれって何だ」
チビが、ピーコとガン助をじっと見ながら訊く。
「オイラの寝床っす。敷いてある小石の中に貝が入ってやして。オイラがケガを治してもらって弱っているのを助けてもらっていた時、一緒に魔力を浴びてたんですがね」
「元々魔力も持って魔物化してたし」
ケロリとガン助とピーコが答え、僕と幹彦とチビはキッチンへとすっ飛んで行った。
もどかしく思いながらドアを開け、靴を脱いで中に飛び込むと、水槽を置いてあるリビングへと駆け込んだ。
水槽はいつも通りだ。小石が敷き詰められ、半分ほどが盛り上がって山になり、流木と握り拳程度の石が置いてある。そして半分には水がためられていた。
目を凝らして小石を見る。この小石はガン助のいた川で取って来たものだ。すなわち、ダンジョンになれなかったダンジョンコアの近くの石だ。
「あ、いた」
幹彦が小石の中に埋もれるようにして転がる二枚貝を見付けた。
目でお互いに譲り合い、結局幹彦が貝を手に取る。
「へえ、貝だ」
棒読みだ。
「混ざったんだなあ。よし、味噌汁に入れるか。今日はアサリだし」
しまった、僕も棒読みになってしまった。
だが、貝はいきなり幹彦の掌から飛び上がり、急に座布団サイズになった。
「何という恐ろしい事を──!」
「あ、喋ったぜ」
「やっぱり神獣なのか」
皆で見る中、貝は注目を集めている事に気付いたようで、小さいサイズに戻って水槽の中に着地した。
4番目の神獣は、イシガイだった。




