教団解体の余波
実っていた果物を採り、ガン助が岩落とし作戦の決行現場で見付けたという美味しいシカを獲り、弾む足取りでエルゼに戻る。
と、ミミルたちを見付けた。
教会は元々大して教義を広めようとしていたわけでもなく、悪魔だ何だと言っていたわけでもない。洗礼を受けたり、結婚式を執り行ったり、葬儀を行ったり、孤児を育てたりという場所だった。聖教国とはどこか別物と捉えるところもあった。
だが、聖教国の悪事が明るみに出ると、いくら末端の教会は別とは言え、態度がよそよそしくなる人もいるし、誰よりもミミルたちが俯く事になった。それで周囲も気を使い、悪循環だ。
「よう!」
幹彦が暗い顔の子供に声をかけると、気付いた子供達は明るい顔をして走って来た。
「チビー!」
「鳥さんがいる!」
「カメだぞ、こいつ」
子供達の目当てはチビたちだった。
「こんにちは」
ミミルはどこか暗い顔で笑顔を浮べた。
「いい天気が続きますね」
時候の挨拶は便利だ。
「本当に。この分じゃ、豊作になるでしょうね」
「そうそう。山で見付けたんですけど、本当に豊作で」
採って来た果物を見せると、子供達が目をくぎ付けにした。
「あ、カラスノタカラ!」
カラスがこれを見付けたらひとつ残らずもぎ取ってしまうと言われるくらいカラスの好物らしい。
甘くて美味しいものだが、それほど高いわけでもない。なのに、皆の目は怖いくらいそれに釘付けで、涎を垂らす子供もいた。
少々おかしいと思ったが、小さい子供が指を咥えて、
「お腹空いた」
と言うのを皮切りに一斉にお腹が鳴り始めるのに、これまでになかった事だと愕然とした。子供らしく遊びまわってお腹を空かせるのはある事だったが、全員が全員こういう状態というのは、短い付き合いでも見た事がない。
「ほら、皆。帰りましょう。ご飯ですよ」
ミミルが慌てて言うのに、子供は正直だ。
「また具なしスープ?」
「お腹がすぐに空くんだもん」
「お菓子食べたい」
僕と幹彦は顔を見合わせ、笑顔を浮べた。
「はい、これは皆でどうぞ。お土産だぜ」
「わあい!」
「洗えよ!それから、ケンカしないで分けろよ!」
幹彦が言うのに子供達はおざなりに返事をして、果物を囲んで孤児院へとスキップして戻って行った。
「あの、シスターミミル。もしかして、聖教国の解体で……」
ミミルは困ったような顔をした。
「街の大方の人は何も言わないでくださいますが、寄付金は減りましたし、何より本部からの運営費がなくなりましたので……」
頭を殴られたような気がした。
幹彦も同じような顔で考え込んでおり、子供達から解放された──果物に負けた──チビたちはただ僕達を見ていた。
「私達が間違った事をしていたのは事実ですから仕方がないのでしょうが……」
「それでも、あなた達がこの街でしてきたことを否定するのは間違いですよ。シスター、その事は胸を張って堂々としていればいいです。
でも、そうか。運営費に頼らないやり方が必要だけど、その前にまずは食事だよな」
「ああ。肉なら狩って来たところだしな。すきっ腹じゃあいい考えも浮かばねえぜ」
僕達は済まながるミミルを従えて孤児院に入って行った。
肉、卵は今獲って来たものがある。ミルクは幸いにもまだ残っているそうだし、パンは買っているそうだ。
「裏庭の畑は、自給自足のための野菜を植えているんですね」
「はい。これで多少はと」
「では、畑を増やして売り物になるものを植えましょう。薬草とか。ポーションまでできれば、もっと収益はあがります。
あと、牛とかニワトリを飼えば、ミルクや卵を買わずに済みます。エサはその辺の草でいいでしょうから、畑の雑草を食べさせればいいし」
「牛とニワトリは、俺達で調達して来ればいいだろう」
「そうだな。どうせなら(魔の)森近くのやつが丈夫だよな」
「ああ。ちゃんと(脅して)調教しとけば大人しくなるはずだしな」
「ワン!」(任せろ)
「ピー!」(しつける!)
「あと、土産物とか小物とかお守りみたいなものとかを作れば売れないかな。
あ、おみくじってこっちで見た事がないよな」
「ああ、行けるかも知れねえ」
僕達はミミルと司祭を交えて今後の収入増の計画を立て、早速取り掛かる事にした。
おみくじは、いわゆるフォーチュンクッキーで、ミミルや孤児院の子供が簡単な運勢やうんちくを書いた紙をクッキーで包み、焼く。
魔の森で乳牛となる牛と卵をたくさん産むというトリを数羽生け捕りにして、チビたちがしっかりと脅しつけて教育し、教会に連れ帰った。
畑には薬草の苗を移植し、例のきのこの原木も置いた。
牛小屋などを作るのは、子供好きのグレイたちも率先して手伝い、領主も孤児院の売り上げは非課税とした。
僕達は教団を潰した後悔はないが、孤児院に余波が及んだ事には心が痛む。教団に所属していた大人はともかく、孤児院の子供には無関係だ。
「中途半端で申し訳ない気もするけど、これ以上は責任も持てねえ」
「そうだよな。僕達は、しがない隠居なんだしな」
世界中で同じような孤児院があるだろうと思うが、地域との関係がよければ、差し伸べられる手があるはずだと信じたい。
その後、卵がやけに高価なものだと司祭は気付き、牛は本来は気の荒いものだと教えられ、網で囲われた木の棒がバカ高いキノコの原木だと知って腰を抜かしかけたが、そんな事は知らない。
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